第六章 戦乱の高嶺に咲く華 6
ロングスピア号(轟天号)でのレントたちの密談から5日後、キュプ王国では和睦の書状を受け取った官吏が送り出されたのを横目で見ながら重臣たちがイルケルに詰め寄った。
「新王イルケル様がこのような屈辱的な和平案を承諾するとは思いませんでした」
「これは国の威信に関わります」
「前王アモン様が暗殺された上にこのような条件を出すとは無礼極まります」
「王さま、今回はたまたま勝てなかったとは言え、国力で言えば我が国のわずか5分の1程度の小国が対等以上の要求をして来るなど許される事ではございません」
重臣たちの言い分を聞きながらイルケルが意味ありげに笑いながら答えた。
「恐らく誰もがそう思っているだろう」
「要求を呑まれたとしても即刻の退去など出来る筈もなく、時間を引き伸ばしている間にうやむやにするしかありますまい」
「王さまとて、これが書面の上だけでのやり取りである事は承知している筈です。撤退などしなければよろしい」
「お前たちもそう思うか。ならばファウンランド国王もまたそう思っているやも知れぬな」
葡萄酒を口に含みながら立ち上がるとイルケルは壁に貼ってある地図に向かった。
「私はこの和睦案を受け入れた。だが、調印式が行われる事はない」
「イルケル王、それはいったい?」
「調印式は3日後、城塞都市レーベンで執り行う事になっている。だが例えば1部の過激な反対派が暗殺を試みる、などと言うのもよくある話ではないか?」
「ファウンランド国王を暗殺するのですか?」
「例えばの話だ。だが飛空艇も低空飛行していれば恰好の的だとは思わんか?古代の遺物であれば容易に撃ち落とせるだろう」
「ですが陸路で来る可能性も・・・」
「むしろ好都合だろう。数に物を言わせて包み斬りするだけだからな」
「首尾よく成し遂げたとしても各国の信用を失います。ましてやしくじりでもしたら・・・」
「その時は調印式の席で始末するだけの事だ」
「そんな!国の威信に関わります」
「誰もがそう思うだろう。各国の王族が列席する場での殺戮というのはまず有り得ないと思うのが普通だな。それが甘いと言うのだ」
イルケルの話に重臣たちが恐れおののき、天を仰ぎ神に祈る者さえ居た。
「そのような事をして宜しいのでしょうか?我々は孤立しようとしているのではありませぬか?」
「まずは討ち取る事だ。それが最優先で後はどうとでも切る抜けられる物だ。もし仮に異論を吐く者が居てもキュプに戦争を仕掛けようなどとは決してしない。後は時が解決してくれるものだ。いつかは記憶も薄れる、それが人と言うものだ」
イルケルが雄弁に語る姿に重臣たちがゾッとした。
まるでかつての王を見るような気持ちであった。
「お前たちには期待しているぞ。当然我が国の繁栄の為に働いてくれるんだろうな?」
「も、もちろんです、イルケル王」
「そ、そうですとも。我が国の繁栄のために」
「ふふふ、頼もしいぞ。間も無くネスカリカからも追加で遺物の兵器が届く事になっている」
「フ、ファウンランドの王を血祭りにあげてご覧に入れます」
「わ、私も全力を尽くします」
「ふむ。私も少し疲れた。皆も今日はもう下がれ」
ぞろぞろと重臣たちが立ち去ったのを見届けるとイルケルはドアに鍵をかけ、テーブルの裏に貼り付けられていた通信機を外した。
「ピサロ神官長、いや、ピサロ教皇猊下、話は全て聞いてもらえたかな?」
「ああ、イルケル殿。貴殿の覚悟と野心、しかと確かめさせていただいた。」
「大陸で1番の強国とネスカリカが手を組む。こんなに素晴らしい事はあるまい」
「我らも中立を貫いて居てはいずれ淘汰されてしまう。古臭い連中はその事が全くわかってない」
「お互いに助け合わなくてはなピサロ教皇猊下」
「全くその通りだイルケル殿。古代兵器は技師と共に明日には届くはずだ。これからもよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願い致す。それではまた後日連絡しますぞ」
「通信が途絶えましただ」
「そのようだな」
薄暗い艦内で全てのやりとりを聞いていたハイネルドが通信機の傍受スイッチを切った。
「キュプの新王もなかなか肝が据わってるなぁ」
「おいおいハイネ、命を狙われてるお前がそれを言うか?」
「命を狙われるなんていつもの事さ」
レントとハイネルドのやり取りを聞いていたルクレがポツリと言った。
「提督、王さま、レントさま。なんなら今からオラがキュプ王国の首都ばミサイルで滅ぼすべぇか?」




