第六章 戦乱の高嶺に咲く華 3
ハイネルドの朝はグラスに半分の葡萄酒とハムエッグから始まる。
それは本国のみならずイリア村の駐屯地に於いても同様であった。
「ハイネ、どうしたの?気難しい顔をしてるわよ」
「気難しい顔にもなるさ。なにしろキュプ王国だけじゃなくネスカリカまで敵に回したんだからな」
リンダに話しかけられたハイネルドがぶっきらぼうに答えた。
「あら、簡単な事じゃないの。両方とも制圧して属国にすれば良いだけの話だわ」
「リンダ、お前レントに似て来たな」
「まぁ。褒め言葉だと受け止めるわね」
「所でそのレントだが、昨夜遅く帰って来たらしい」
「まさか!だってレーベン近海から通信を受けたのは1昨日よ。距離的に有り得ないわ」
「それだよ。馬を駆っても片道で3日はかかる距離をその日程で戻る事自体が異常だ。ましてや軍事用の通信機に連絡を入れて来たってのも当然有り得ない事だ」
ふらりとレーベンへ出かけたレントが更にネスカリカを経由して5日ほどで何事も無かったかのように戻って来たのである。およそ有り得ない事であった。
「まぁレンちゃんの事だからフラッと現れて事情を説明してくれるんじゃない?」
「怖いからあんまり説明を聞きたくないなぁ」
「それは確かに言えてるわね」
「さてと、では定例報告を始めてもらおうか。本当はレントが居ると良いんだが仕方ないな」
側に控えていた重臣がハイネルドに向かって報告を始めた。
「まずは戦況ですが本国への侵攻を行っているキュプの軍勢の撤退が開始されています」
「じゃああとは補償と領地の割譲ってところか」
「実はその事なのですが・・・」
「どうした?歯切れが悪いじゃないか。まさか渋っているのか?構わん、言え」
「実はレント様が城塞都市レーベンをキュプ王国から割譲後に拝領したいと申し出ております」
ハイネルドがその言葉に噎せて葡萄酒を吹き出し咳き込んだ。
「あいつはバカなのか?そんな条件をキュプ王国が飲む訳が無いだろう」
「私もそのように申しました。なにしろあそこはキュプ王国の最重要拠点ですので手放す訳がありません」
「で、どうした?レントは納得して諦めたのか?」
「それが、割譲のなった際にはハイネルド王から下賜される確約が欲しいとの事で・・・」
「あいつが本当に欲しがってるとは思えんな。イリア村と周辺の下賜を断って支配権のみ与えられるように申し出る奴だぞ」
「レンちゃんが欲しくもない物を欲しがる時は、大体国の為になる意図で言うわよね」
「キュプにレーベンの割譲を申し渡す事がファウンランドの為になると?」
「おそらく。確信はないけどきっとそうよ」
「・・・なるほど、まぁ絶対に拒むだろうが要求するだけなら別に構わんだろう。よし、許可する」
「えー・・・次にキュプ王国軍の捕虜ですが、ざっと30万人ほどになります。ついては開拓地へと連行して労働に従事させる方向で検討しておりますが、よろしいでしょうか?」
「それで構わん。それと志願する者は兵に取り立てて・・・?おい、これは何の音だ?」
轟音と共に土煙を上げて、黒光りする甲虫のような車両が猛スピードでハイネルドの元へと突進してきた。化石燃料で動く古代の遺物、ドルテ自慢の1台であった。
「ド、ドルテ先生。いったいどうしたのですか?」
「なぁに、レントに頼まれてのう。王子を1人だけで連れて来て欲しいんじゃと」
「こ、これで・・・行くんですか?」
「安全第一で行くから安心せい、さぁ早く乗った乗った」
「いや・・・その・・・嫌な予感しかしないです」
同じ頃、ネスカリカの教皇猊下ピサロの元にも側近が報告を行っていた。
「教皇猊下、崩落した岩壁の奥で発見された機械人形の事なのですが・・・」
「ああ、あの四肢を切断されて石室に練り込まれていた青い髪の娘か。あれがどうした?」
「我々の言葉を少しづつ理解して、同時に切断損傷している手足が修復されて来ております」
「まぁ仕組みは分からんが遺物には良くある事なのだろう。で?」
「断片的ではあるのですが・・・世界を支配する力を授けたいと言っております」




