第六章 戦乱の高嶺に咲く華 1
ファウンランドから遥か南西に位置する砂漠地帯にネスカリカはあった。
古代人の独自の技術で内陸部まで海を引き込んで港が造られ、また河川を引き都市周辺にのみ緑が茂っている。
近隣都市を追われた異教徒(ジェイン教)の難民たちがこの遺跡の都へ迷い込み、住み着いたのが始まりと言われている。
攻めず侵さず博愛の心で国を治め、近隣諸国へも中立を保っていた。
41代目神官長が亡くなるまでは、だが・・・
大理石造りの大広間を小太りの神官が息を切らせて走ってきた。
最奥の玉座に鎮座するピサロの前に膝をつくと息も絶え絶えに報告した。
「神官長様、ロングスピア号が到着しました」
ピサロは神経質そうな痩せぎすの小男だった。30そこそこにも関わらず頭が禿げ上がり、その頭に不釣り合いな豪奢な宝冠を被り、尊大な態度で信者や神官を従えていた。
そのピサロが酷薄そうな目を細めると眉間にシワを寄せて報告に来た神官を一喝した。
「余を神官長と呼ぶなと何度言わせるのだ。教皇猊下と呼ぶように何度も言ったはずだぞ!」
「も、申し訳ございません教皇猊下」
「次に同じ事を言ったら細かく斬り刻んで禿鷲のエサにするぞ!」
「ハ、肝に銘じまする」
「それで?乗っている奴らはどうした?」
「教皇猊下の前で懺悔と申し開きをさせるべく別室で待機させております」
「ふむ、で?乗っていた者たちは全員が船を強奪した者たちと言う事でいいのか?」
「まだ確認はしておりませんが・・・」
「なら確認しろ。強奪者だったら全員斬り刻んで禿鷲にくれてやれ」
「そ、それはファウンランドに宣戦布告するようなものです」
「お前の主人は誰だ?余ではないか、その余の命令に逆らうのか?」
「き、教皇猊下のお心のままに」
神官は武装した教徒に目配せすると20人ほどを従えて広間を退出した。
ピサロは傍らのテーブルに置かれた葡萄酒を一息に飲み干して悪態を吐いた。
「まったく年寄りは使えんな。お前たちもそう思うだろ?」
広間に居並ぶ信者や神官5000人ほどが膝をついてピサロに向かって頭を下げた。
教皇猊下のおっしゃる通りでございますと口々に称える。
半裸の端女が空のグラスに葡萄酒を注ぐ中、ピサロは残忍な笑みを浮かべていた。
やがて遠くで叫ぶ声や鎧のぶつかる音が聞こえた来た。
ピサロはそれを聞きながら、まるで耳に心地良いようにニヤニヤと笑みを浮かべる。
「どれ、退屈しのぎに船泥棒たちの末路でも見に行くか」
ピサロが立ち上がると広間の入口に甲冑を着た騎士が2人立っているのが見えた。
不意にピサロの背中にヒヤリとした寒気が走った。騎士の足元に先ほどの神官の首が転がっていた。
ガシャリ、ガシャリと音を鳴らして立派な甲冑を着た方の騎士が歩を進める。居並ぶ者たちは声を掛けることも咎める事も出来ずにただ見守るばかりであった。
ピサロの目の前まで近付くと騎士は血にまみれた兜を脱いで床に放り投げた。
「オレの名はクロロ、蠍旅団の副団長だ」




