第六章 底抜けの馬鹿者たち 3
アークに操作方法をほぼ教え終わったガブリエルが、ふと思い出して言った。
「そう言えば1つ言っておく事がありました」
「言っておく事?」
「ええ、団長さんも聞いて下さい」
「ん?どうした?」
「えーとですね。実はこの船に魔物が1匹住みついて居るんですよ」
「魔物?」
「ええ、あの扉の先です」
ガブリエルが最奥の扉に顔を向けた。鋼材やパイプでバリケードが築かれ、扉もまた鉛で溶接されていた。
「古代の遺物に魔物か・・・一体どのぐらい住みついてるのか知らないが気が遠くなるほど昔から居るんだろ?オレなら気が狂いそうだな」
「私自身は見た事はありませんが、88歳になる先代の神官長がその魔物を見て死んでしまいました。」
「いやバカかお前ら、そんな爺さんに魔物を見せるなよ!そりゃ死ぬよ!」
「そんな、でも、いや・・・すみません」
「んで?どんな魔物だったんだ?」
「・・・モスイーターだったそうです」
「モスイーター?そんな名前の魔物なんて初めて聞くな。誰か知ってるか?」
「あ、自分知ってます」
「おう、ダークか。で?どんな魔物なんだ?」
「雪山に生息していて名前の通り苔を主食にしているんですが、時々生きた動物や人間を攫っては洞窟で苔を植え付けるそうです」
「植え付けてどうするんだ?」
「育ったその苔を食べるそうで、まれに洞窟から逃げて来た人も一生体から苔が取れないそうです」
「妙な魔物だなぁ・・・」
「魔物と言うよりもどちらかと言うと伝承に近い怪物ですね。緑色の長い髪を持ち、人間のような姿をしているそうです」
「私も大体ダークさんの言ったのと同じ話を聞いています」
「なるほど、それがこの扉の奥に居ると・・・」
「はい、ですのでその扉は決して開けないように・・・・って、何してるんですか?」
「決まってるじゃないか、開けるんだよ」
「ち、ちょっと・・・あなた人の話を聞いてたんですか?魔物が居るんですよ」
ガブリエルの言葉には耳も貸さずにレントはバリケードをへし折り鋼材を放り投げた。
そしてドアノブに手をかけると力任せに引っ張った。バリバリと溶接された鉛がちぎれ飛び、ドアが開いた。
頭を抱えてしゃがみ込むガブリエルをよそに、レントとマルコスが驚嘆の声を上げた。
「おおっ、髪は緑だがかわいい女の子じゃないか」
歳は15ぐらいだろうか、深い緑色の髪が腰のあたりまで伸び、見たことの無い素材のタイツのような服を着てている。
「やぁ、はじめまして。君がモスイーターかね?」
「いんや、オラはこの轟天号のサポートヒューマノイドでSI・ルクレつぅだ」
「ひぃぃぃぃ、もう勘弁して下さい。操縦方法も教えたし、私を本当に助けてくれるのならここで逃がして下さいぃぃぃ!」
「いや、なんかこの船のなんとか言ってるぞ?」
「苔を植え付けるためのでまかせに決まってます」
ガブリエルたちのやり取りを聞いていたマルコスがレントに耳打ちした。
「団長、面倒な事になる前に逃がした方が良くないですか?」
「面倒な事?」
「あの娘、恐らくこの船について神官たちも知らない情報を持ってますよ」
「いや、どう見ても何かの手違いで紛れ込んだ田舎娘だろう」
「だったらとっくに飢え死にしてるでしょう。恐らくはあの娘自身もまた古代の遺物なんです」
「つまり・・・機械?」
「人型の兵器の可能性もありますね。少なくとも生身の人間じゃありません」
「なるほどな・・・確かに余計な情報を与える必要は無い」
小声で話している2人のそばにルクレが近付いて訊いてきた。
「あんの、この人ば外に出すだか?だばその柱のへこんだ所に立たせくれろ」
「柱?そこか?」
「んだ。フロートシューターで出すでちょっとまってけろ」
ガブリエルを指定された場所に立たせると、床に突然穴が開いて吸い込まれるように落ちて行った。
唖然としているレントの背後で何かが破裂するような音が響く。
「おま、おま、お前ぇぇぇ!・・・殺したのか?」
「なに言うとるだ、窓から見でけろ。ちゃんと砂浜まで安全に送っただ」
急いで小窓から外を見ると半透明のクラゲのような小舟に乗ったガブリエルが呆然としてるのが見えた。
「あれがお前の言ってたフロートシューターってやつか?」
「んだ。それど、オラはお前って名前じゃねぇだ。ちゃーんとSI・ルクレつぅ名前があるだでそう呼んでけろ」




