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悪役令嬢の品格-読者様への感謝を込めた短編集-  作者: 幸路 ことは


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愛とプリンにあふれた祝福の日

 聖堂の鐘の音が響く。アスタリアで行われた式に参列しているのは、関係国の王族や貴族たちであり、きらびやかなドレスが場を華やかにしていた。全員の視線は中央奥の祭壇にいる二人に注がれている。誰もが引き締まった顔をしていながらも、どこか和やかに嬉しそうな顔をしていた。


 純白のドレスに身を包んだエリーナはヴェールを被って、クリスと向かい合っている。ドレスのデザインはベロニカと同じで、ベロニカのドレスを着たがったのだが、「サイズが違うでしょ!」と一蹴され、似たものを仕立ててもらったのだ。ベロニカのウエディングドレスは清楚で、気品のあるデザインだ。そこに少しレースを足し、胸元に紅い薔薇のコサージュをつけていた。


 そのエリーナを愛おしそうに見つめているクリスは、紅い髪を撫でつけ光沢のある灰色のタキシードに身を包んでいる。静まり返った荘厳な聖堂に、クリスがヴェールを上げる衣擦れの音だけが響く。

 甘く微笑むクリスに、少し恥じらうそぶりを見せるエリーナ。そして唇が合わさった瞬間喝采が巻き起こり、二人は照れ臭そうに微笑んで参列者へと向き直った。最前列の左手にいるクリスの家族たちは温かい拍手を送っており、母親の目には涙が浮かんでいる。シルヴィオの隣でナディヤが嬉しそうに手を叩いていた。


 右手にいるベロニカは号泣しており、ハンカチを目に当てている。その背中をジークが優しく撫でていた。エリーナは思わず抱き着きたくなり、それを察したクリスに手を握られる。参列者にはルドルフやラウルの姿もあり、エリーナは胸に込み上げるものがあった。


「クリス……なんて幸せなのかしら」


 感動に声を震わせるエリーナ。クリスは優しく握った手に力を込め、「僕もだよ」と甘い声を返すのだった。

 



 式が終われば披露宴であり、ドレスを変えたエリーナは各国の招待客から挨拶を受けていた。会場はアスタリアの王宮にある大広間であり、シャンデリアが美しいドレスを照らしている。

 エリーナは淡いクリーム色のドレスを着ており、ふんわりとレースとフリルでふくらんだ可愛らしいデザインだ。それでいて散りばめられたアメジストが紫色の光を反射させ、優雅さも出している。アイシャと王宮の針子たちの合作だった。髪は結い上げられ、そこにもアメジストがつけられている。

 披露宴での挨拶は王族たちだけであり、貴族たちは食事が終わった後になっていた。ベロニカとジークの姿が見えたとたん、エリーナはパッと表情を明るくして見事なカーテシーを披露する。本当は抱き着きたいが、我慢だ。ベロニカのお腹はまだ大きくなく、落ち着いた紺色のドレスを着こなしていた。お腹を締め付けないよう、すこしゆとりのあるデザインだ。


「エリーナ、クリス様。結婚おめでとうございますわ。わたくしを見習って、いい妻になることね」


 ベロニカは先ほど泣いていたことなど無かったかのように、澄まし顔でお祝いの言葉を口にする。それに対してジークは苦笑を浮かべ、「いい妻」と含みのある顔で反芻してから挨拶を述べた。


「二人とも、結婚おめでとう。結婚してもいつものように仲がよさそうで、安心するよ。一週間後のラルフレアでの結婚式も楽しみにしている」


 ジークはうまく国を治めていて、アスタリアでも賢王と評されている。二人とは明日ゆっくり話す時間を取っているため、この場では挨拶に留めてほほ笑んで去っていった。

 そしてナディヤに「ナディヤお姉様」と呼びかければ、「恐れ多い」と震えられ、シルヴィオは「可愛い妹ができて嬉しいよ」と魅惑の笑みを返された。すぐさまクリスが剣呑な顔になり、一瞬空気が固まる。その後は両親や第一王子が続き、皆温かい言葉を贈っていた。


 南の国からはシャーロットとエドガーに、第一王子も来ていた。「とてもお美しいです」とうっとりするシャーロットに、半歩引いて控えるエドガー、「その節は妹が迷惑をかけた」と律儀に謝罪する王子。しっかりした兄のようで、気苦労が多そうだった。


 王族の挨拶が終われば、皆席につき食事が始まる。当然披露宴の料理は、アスタリアの美食の髄を集めたものであり、前菜から高級料理が続く。エリーナはプリン尽くしにしたかったが、それは結婚式が終わってから屋敷でやろうとクリスがやんわり却下していた。


「うん、すごくおいしいわ」


 味だけでなく盛り付けにもこだわっており、舌の肥えた賓客の反応も上々である。料理はスープ、メインへと続きデザートはエリーナの意見を取り入れて最高級プリンを出した。この日のために餌から厳選し、のびのびと放牧させた牛とニワトリから取れたミルクと卵を使ったプリンだ。配分と蒸す時間の黄金律を探し当て、プリンというデザートを国宝級まで高めた逸品だった。


 それは、スプーンですくえばほどよい弾力がありながらも、舌の上に乗せた瞬間とけていく。優しい卵とミルクに包まれ、上品な甘さを感じるとともに、バニラの香りが鼻へと抜ける。主役の二人のような幸せが溢れており、一口食べれば頬がとろけることは避けられなかった。


「おいしすぎるわ」


 エリーナはあまりのおいしさに感動し、堪えきれずに二つ目を柱の陰に隠れていたリズに目で頼んだ。花嫁であるため、お代わりを頼むわけにもいかないのだが……。リズは無言で頷くと、すっと手を挙げた。それが合図だったようで、ファンファーレが鳴り響き、勝手口が開く。参加者の視線がそちらにくぎ付けになったところで、リズがすっと近づいて二個目のプリンを置き、空の器を下げて柱に潜んだ。


(さすがリズ。もはや忍びね)


 エリーナの前にはプリン。まるで一個目を食べていなかったように、素知らぬ顔で手に取るのだった。そしてファンファーレと共に入って来たのは大きなケーキで、チーズケーキの上にプリンケーキが乗り、芸術的なデコレーションがされている。お菓子の花が開き、蝶が舞っていた。華やかなケーキの登場に、会場は盛り上がる。この文化はアスタリアにはなく、リズがどうしてもしてほしいと頼み、担当の料理人たちが「それは熱い」と意気投合した結果である。


「まぁ、圧巻ね」


「ほんとだね。絵で見るのとは迫力が違う」


 リズはケーキ入刀の方が見たかったのだが、さすがに理解がされにくいだろうと、後日屋敷でプリン尽くしパーティーをする時に、してもらうことになっていた。

 その大きなケーキを鑑賞してもらい、料理人たちが切り分けていく。女性には飾りが多く甘いプリンケーキを、男性には甘さ控えめのチーズケーキを。そして歓談の時が流れ、休憩を挟めば場所を移して舞踏会が始まるのである。


リクエスト、全部消化できましたよね……(*'ω'*)

次話、フィナーレです。

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― 新着の感想 ―
[一言] カスタードに始まり常にカスタードに立ち返り、終わりはない。 プリン道の果てしなさは螺旋を描き、天空の高みへと消えていってるのですね。 最高級プリンおいしそうだよー
[一言] >「ナディヤお姉様」 「ナディヤお義姉様」じゃないんですね。 確かに幸せな日ですね。 特にクリスにとっては、番外編に入ってから不憫続きでしたから余計にそう思うでしょう。 でまぁ、そんな不…
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