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【書籍化&コミカライズ】前略母上様 わたくしこの度異世界転生いたしまして、悪役令嬢になりました  作者: 沙夜
本編

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思い出話に花を咲かせましょう4

そんな弟の婚約者の豹変は、なんの前触れもなく訪れた。


そしてその知らせは、またたく間に学園中に広まった。


聞くところによると、昨日婚約者である弟から叱責を受けたショックが原因ではないかという話が信憑性が高かった。


まあ悪い方向に変わったわけではないようなので、あとは弟が少し歩み寄ってくれれば改善されるかもしれない、それくらいにしか思っていなかった。


それがまさか後日、偶然の出会いを果たすなんて思いもしなかった。


初めて言葉を交わした弟の婚約者は、噂通り少し前とは印象が変わっていた。


そして、他の貴族令嬢とは全く違う。


だから、ほんの少し興味を持った。


武術の試験に意欲を見せていたからかもしれない。


少しだけ、母を思い出した。






あらゆる実技試験で興味深い結果を見せてくれたリュミエール公爵令嬢、セレナ嬢には、その後も興味をそそられた。


魔法に精通しており、武術の心得もある。


それでいて菓子作りなども行い、感情がくるくると変わり、まるで普通の令嬢達とは違う。


あの黒い菓子もそうだったが、彼女と関わるたびに母を思い出す。


似ているようで似ていない。


全く予想外の言動をする彼女から、目が離せなくなっていた。


そんな彼女と、偶然視察しに出ていた市井で出会い、彼女の友人達に休ませてやってほしいと頼まれ、お茶を飲む機会に恵まれた。


相変わらず彼女は飄々としていて、弟のことをどう思っているのか聞いても、あっけらかんと愛していないと答えた。


それなのに、一瞬だけ憂いの表情を見せられて、俺の胸はざわついた。


『この先なにが起きても、できればわたくしのことを嫌わないで頂きたいですわ……』


彼女はなにを考えているのだろう?


そして、なにを背負っているのか。


その心の不安を取り除いてやりたいと思った。


そんな資格、自分にはないのに。


その日、帰寮するとキサラギ皇国の使者が助けを求めて来たとの知らせが入った。


親交のあるセザンヌ王国の王子であるフェリクスに助言をもらいたいとの便りが届くとともに、俺にも父と義母から文が届いた。


国の大事、力を貸してくれないかと。


それに俺の中には多少なりともキサラギ皇国の血が流れている。


十数年セザンヌの親族たちと関わって、少しだけキサラギ皇国について知ったこともある。


王子として曖昧なことをしている自分がそんな大事に関わって良いのかとも思ったが、だからこそこんな時くらいはと王宮に行くことを決めた。


そしてなんと、ここでもセレナ嬢に会うことになった。


この件を任された彼女の兄が、妹はキサラギ皇国の伝統舞踊に心得があると父や義母に報告したからだ。


あの黒い菓子、それに舞踊まで?


なぜ彼女がと思いはしたが、使者達をもてなすのに力を貸してもらえると心強いのは確かだ。


さらに、長旅の使者達を気遣ってキサラギ皇国の主食である米を使った料理で、怪我人に負担のない消化に良いものにも心当たりがあると言う。


本来関係のない彼女の手を借りすぎるのも心苦しいが、とても助かることには違いないため、頼むことになった。


かと思えば、次の日にはなんと国内でも屈指の医師と魔術師を唸らせるほどの治療魔法を披露してくれた。


彼女のことだ、予定よりも早く到着した怪我人の重篤さを見て、自分にできることをしたいと思った結果なのだろう。


俺が弟の暴走を止めようと室内に入った時にはもう、全て終わってしまっていたが。


その後、別室で事情を聞くことになったのだが、弟は相変わらず自分本位な主張をするだけだった。


部屋にいた誰もが呆れていると、彼女の様子が変わった。


愛していないと言いながらも、やはり彼女は傷付いているのだ。


それはそうだろう、自分の婚約者に睨まれ、批判をぶつけられてきた。


その上目の前で浮気相手とのやり取りを見せつけられているのだから。


震える彼女を守りたいと思ったけれど、彼女が頼ったのは俺ではなかった。


彼女をかわいがっている兄に縋るのは当然だろう。


そんなこと分かっている。


それなのに、なぜ俺がショックを受けているのか。


その答えには、もうとっくに気付いていた。


『何度目か分からないけど、もう一度言おうか?』


フェリクスに幾度となく言われ、毎度否定してきたが、もう誤魔化せなかった。


『挽回する』


みっともなく逃げ続けてきた自分にそんな資格はないのかもしれない。


けれど、この時俺は決心したのだ。


自分の手で、国も、大切な人も、護りたいと。


そして、自分の決意を告げるべく、父の執務室へと歩き始めた。





次の日。


朝から王宮に呼び出された彼女は、目を少し腫らしていた。


昨日、泣いたのだろう。


それでもこうして気持ちを立て直して、登城してくれた。


もうなんともないという彼女に使者の容体を話せば、ぱっと表情を明るくして喜びを表した。


不安もあったけれどやれることをやって良かった、昨日話していた米料理も作りたいと言ってくれて、そのひたむきな姿に思わず頬が緩んだ。


彼女に負けたくない。


今まで逃げてきた分、これから努力しなければいけないな。


遅いかもしれない。


けれど、間に合うかもしれない。


可能性があるなら諦めたくない。


『“逃げるが勝ち”という言葉もあるからの。逃げるのは悪いことではないが、その後どうするかが肝心じゃぞ?』


いったん退いて終局において勝利をおさめれば良いということだと、セザンヌ王国に滞在していた際、母の兄弟から聞いた。


『勝利のためには、なりふり構っていられないな』


呑気にしていると、全部彼女にもっていかれてしまう気がする。


突拍子もない彼女の言動を見るのも、それはそれで楽しいけれど。


そうくしゃりと笑って、俺は今日も父と義母を訪ねた。

レオ編が思った以上に長くて……

興味がなかったらすみません(´・ω・`)

あと一話で終わるはず……!

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