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高台で円形に配置した白装束。
その全員が『最後の一人』の到着を待っていた。
もう予定の時間を過ぎている。
雷雲はそこまで来ていた。
「なぜ来ない」
「わからない」
「時間の通りに巡るはず」
口々に疑問をささやく。
首飾りをつけた者たちは、ただ円の中心で琥珀石から滲み出す魔力に精神を支配され、夢半ばの感覚で高台に立ち尽くす。
白装束の一人がその場から動いた。
両手を合わせて。
その場にひざまずいた。
「首飾りの魔力を強化する」
「それで来るのか」
「いかに魔力が強くとも抗えまい」
その白装束の全身が微光する。
すると、首飾りの琥珀石が一斉に震動した。邪悪な魔力が強さを増し、より精神を深く侵していく。
強化を完了して。
白装束は立ち上がった。
「これで集まるはず」
「へえ、そういう絡繰なのね」
「ぎゃっ!?」
円で構えていた僧衣の一端。
それが悲鳴を上げ、地面に倒れた。
全員の目がそちらへ注がれる。
そこに、剣をたずさえたマリアが立っていた。
「剣姫か」
「なぜここに」
「観光よ」
マリアは飄々と応えた。
彼女へと、円を崩して僧衣がにじり寄る。多勢対無勢、騎士ならば恥じる戦法を即座に取って制圧せんと武器を手に迫った。
それでも。
マリアの余裕綽々とした態度は崩れない。
「束でも私に敵わないでしょ」
「それはどうだろう」
「魔神の加護がある我々が勝つ」
「加護、ね」
マリアが片手を挙げる。
それを合図にしたかのように、高台の広間の中心へ空から落ちてきた剣が刺さる。
突然で誰もが驚いた。
剣の鍔の青い水晶が光る。
首飾りに宿っていた魔力が黒い靄となって、琥珀石から吹き上がり、空気中に散逸した。首飾りを装着していた全員が、意識を失って地面に倒れる。
次に魔神教団の全員が脱力感におそわれ、しだいに胸の中に広がる虚脱感であえぐ。前のめりにくずおれた。
暴力的な魔力の吸引。
広間に、マリアだけが直立している。
「もういいぞ、レイン」
『ん』
幼い声。
魔力の吸収が途絶し、魔神教団は苦しみから解放されて地面に伏せたまま深呼吸する。
そして。
広間の中心へと、タガネが進み出た。
「ご苦労さん」
『がんばった』
魔剣を鞘に納める。
「これで全員か?」
「そうだと思うわ」
用心深くタガネが周囲を見回す。
マリアは彼のそばに寄った。
「コイツら、どうするの?」
「そりゃ、尋問したいが…………」
二人は海の方角をかえりみる。
積乱雲が、もう港の直前に差し掛かっていた。
魔獣の襲来まで猶予は無い。
『タガネ』
「どうした」
魔剣から声が響く。
『レイン、上に持って』
「どういうことだ」
『はやく』
その指示に従って。
タガネは剣を空へ高く掲げた。
『くる』
警戒を喚起する声色。
二人の頭上に白光が炸裂した。




