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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
五話「夕発ちの雷」後問
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 宿の部屋の前。

 入口に立っていたタガネは、フィリアをかわして室内へと押し入る。そして寝台の上の首飾りを見つけるやいなや。

 魔剣で一閃した。

 目にも留まらない速さ。

 寝台の毛布には傷すらつけず。

 首飾りの琥珀石が音もなく両断される。

 唖然とするフィリア。

 タガネが振り返る。

「間に合ったな」

「え、あの」

 剣を鞘におさめて。

 ようやくミストへと振り向く。

「よう」

「……何故ここに」

 再会した両名。

 タガネは気軽に話しかけている。

 対するミストは。

「何か用?」

 冷然とした態度で応えていた。

 フィリアは呆然として、思わず間の抜けた表情で数呼吸ものあいだ固まる。顔を紅潮させて話していた様子とは対照的であった。

 さも蔑むような眼差しで。

 タガネを見つめている。

 その光景に、フィリアは得心した。

「なるほど」

「なに一人で心得てんだ」

 タガネが訝しむ。

 周囲の空気に同調する余り、一人で彼と出会っても冷遇してしまうミストの態度は、もはや疑う余地もないほど平生のことなのだ。

 気づくはずもない。

 フィリアは二人を交互に見て。

「お気の毒に」

「……なぜ憐れまれたんだ」

 納得いかないと不平顔。

 タガネは釈然としない思いのまま、破損した首飾りを持ち上げる。掌の上に乗せ、鞘ぐるみの魔剣に近づけた。

 魔力を感知する魔剣にも反応は無い。

 無造作に放り捨てて。

 次はフィリアの前に立った。

「不吉な魔力の反応を辿って来た」

「不吉な魔力?」

「そしたら町中で大きな反応は二つ」

「……高台」

「ああ、それと……おまえさんの所」

 首飾りを一瞥して。

「この循環を終わらせる」

「循環……繰り返しですか」

「やはり記憶があるんだな」

 フィリアは神妙な面持ちでうなずく。

 直近の一度しか記憶は無い。

 ただ、その『前回』ですら既視感があったので、もう複数回の経験には間違いない。この繰り返す時間を脱出できていないのだ。

 タガネは寝台に座った。

「なら話は早い。――ミスト」

「な、何か?」

 蚊帳の外だと油断していた。

 ミストは彼の視線に一瞬うろたえる。

「巨大な(アゴ)と牙、天から伸びてくる長い胴体……雷雲」

「…………」

 ミストは少し上の虚空を睨んで黙考する。

 やがて。

「ミーニャルテ」

「ミーニャ……?」

「北の古い言葉の『夏の朝(ミーヌ)』、『夏の夕暮れ(ナハルテ)』が起源の魔獣」

 フィリアは小首を傾げた。

 会話の流れから、時間の循環についての内容だとは察せられるが、その中にどうして魔獣の名前が挙がるのか。

 そんな彼女を置き去りに。

 ミストは滔々と説明を続けた。

「群を成して行動し、その魔力で雲霞(うんか)を生成し、巣とする。本来なら常に移動し続け、捕食した生物の時間を円環状にして繰り返させる。その都度、喰らって魔素を得て成長する巨大な蛇」

「魔素を……?」

「ただ、人を襲わない珍しい種で討伐対象なりえず放置される」

「そうか」

 タガネは一人了解して。

 フィリアへと再び向き直る。

「フィリア、この繰り返す時間の正体」

「は、はい」

「それは」

 タガネが窓外を指差した。

 その方向を視線でなぞったフィリアは、水平線上にある雲を捉える。

 こちらへ悠揚と迫る巨大な積乱雲。

「あの雲の中身だ」

 タガネが卑屈な笑みを浮かべた。






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