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高台までの道のりは混雑していた。
二人の行手には行列ばかり。
店の数だけ列が並び、その終端が先頭の隣まで往復するほどの長さを作る店舗もあった。
それらが一条の道を入り組んだ迷路に変える。
その上。
行列で狭まった道を、さらに歩行者が歩むことで、もはや混沌と化している。
人間の作る渦で、フィリアたちが方向を見失って翻弄されることもしばしばあった。
そんな最中。
フィリアの歩調は早くなっていく。
当惑しながらも、足だけは明確に高台を目指して猛進する。その速度は、手を引いて歩くミストへの配慮すら失われていた。
彼女自身が混乱している。
華やぐ商店街の活気に圧されていたのもあった。
しかし。
フィリアは急いで冷静さを欠いている。
不思議な焦燥、高揚。
食事会の招待。
会場には西方島嶼連合国の料理もある。
事前に聞き及んだ情報の魅力もあって、気がはやっているのかもしれない。
従いて行くミストは必死である。
「フィリア、何処に行くのですか」
「東の高台です」
「東……ですか」
ミストの表情が曇る。
思案げに目を伏せて杖を抱きしめた。
彼女が立ち止まり、フィリアも振り返る。
「どうかしましたか?」
「……フィリア」
「はい?」
フィリアの瞳の奥を覗くように見上げる。
「……いえ、何でもありません」
ミストは首を横に振る。
不審に思いながら、フィリアは進み出した。
目指す先の高台。
それが次第に近づくにつれて、胸中でせめぎ合う感情がまた変わっていく。接近への恐怖と高台に向かおうとする使命感が湧き上がる。
どうして焦っているのか。
どうしてそこまで急ぐのか。
そう疑念を抱く余地すら無い。
逸る気持ちと加速する足運び。
追いすがるミストの顔が険しくなった。
「フィリア?」
「行かなくちゃ」
「フィリア!」
「行かなくちゃ」
もう名前を呼んでも届かない。




