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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
五話「夕発ちの雷」前問
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 高台までの道のりは混雑していた。

 二人の行手には行列ばかり。

 (たな)の数だけ列が並び、その終端が先頭の隣まで往復するほどの長さを作る店舗もあった。

 それらが一条の道を入り組んだ迷路に変える。

 その上。

 行列で狭まった道を、さらに歩行者が歩むことで、もはや混沌(こんとん)と化している。

 人間の作る渦で、フィリアたちが方向を見失って翻弄されることもしばしばあった。

 そんな最中。

 フィリアの歩調は早くなっていく。

 当惑(とうわく)しながらも、足だけは明確に高台を目指して猛進する。その速度は、手を引いて歩くミストへの配慮すら失われていた。

 彼女自身が混乱している。

 華やぐ商店街の活気に圧されていたのもあった。

 しかし。

 フィリアは急いで冷静さを欠いている。

 不思議な焦燥、高揚。

 食事会の招待。

 会場には西方島嶼連合国の料理もある。

 事前に聞き(およ)んだ情報の魅力もあって、気がはやっているのかもしれない。

 ()いて行くミストは必死である。

「フィリア、何処に行くのですか」

「東の高台です」

「東……ですか」

 ミストの表情が曇る。

 思案げに目を伏せて杖を抱きしめた。

 彼女が立ち止まり、フィリアも振り返る。

「どうかしましたか?」

「……フィリア」

「はい?」

 フィリアの瞳の奥を覗くように見上げる。

「……いえ、何でもありません」

 ミストは首を横に振る。

 不審に思いながら、フィリアは進み出した。

 目指す先の高台。

 それが次第に近づくにつれて、胸中でせめぎ合う感情がまた変わっていく。接近への恐怖と高台に向かおうとする使命感が()き上がる。

 どうして焦っているのか。

 どうしてそこまで急ぐのか。

 そう疑念を抱く余地すら無い。

 (はや)る気持ちと加速する足運び。

 追いすがるミストの顔が険しくなった。

「フィリア?」

「行かなくちゃ」

「フィリア!」

「行かなくちゃ」

 もう名前を呼んでも届かない。




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