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タガネたちが山岳地を調査していた。
それと同時期の王都である。
上空に光のカーテンが棚引いていた。
常に七色に変遷する幻想的な極光に照らされて、城下の人々は感嘆と高揚で包まれている。ヴリトラの災厄から立ち直った頃に現れたそれは、何かの救いの啓示にすら思えた。
しかし。
随喜に踊る国民には、避難勧告が出ていた。
商人たちと共に出ていく者もいる。南北の検問は凄まじい人だかりができていた。
そして、王宮もまた慌ただしい。
避難作業が急がれている。
その要因は一つ。
ヴリトラを凌ぐ災厄が訪れていた。
王国の存亡が懸かっている。
第一王子ルナートスも剣を手に、王宮のバルコニーから王都の遥か南の空を眺めていた。その眼差しは、ただ緊迫した鋭さを帯びる。
隣でミストが杖を抱いて萎縮していた。
空を彩る極光。
ここ三千年の歴史に、幾度が現れる天災。
地上を貪るヴリトラ。
空を塞ぐデナテノルズ。
そして。
「来るのか、ヤツが」
遥か空の彼方より星を招く。
北海から産み落とされる魔神の申し子。
ルナートスの視線が凍った。
顔の筋肉が強張る。その異変を機敏に察したミストも、肌に感じた強大な魔力に総身を震わせた。
遠くの山。
その中に蠢く影があった。
空の極光が光量を増し、空気が冷たくなる。
「あれが、最悪の魔獣か」
「王子、逃げましょう」
「……マリアも団長もいない、我々だけでも王国を守るんだ」
空に轟く遠雷の音。
いや、それは獣の咆哮だった。
王都にいる全員がその音を知覚した瞬間。
南の山々が白光の中に消えた。
ついで訪れる地殻と大気の鳴動。
爆風が遅れて押し寄せた。
「無理……だろうな」
ルナートスが諦念で震えた弱音を洩らす。
ミストも、絶望で床に座り込んだ。
彼らの予感した通り。
その数時間後、王都は消滅した。




