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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
四話「橋織る谷」・上巻
63/1102



 その頃。

 王国に一報が届いていた。

 早馬で届けられたそれは、剣鬼(タガネ)が調査としてとある土地を訪れる(むね)を伝達するための書状である。

 宰相からそれを受け取って。

 国王は中身をあらためた。

「ううむ」

「内容は……どのような物でしょうか?」

「……仕事が早い」

 国王が笑みを浮かべる。

 その顔の柔和な皺が深まった。

 書状の内容。

 タガネは独自に剣姫の行方を調べている。

 少しして彼が帝国の革命家リクルを捕らえた一件で、剣姫からの援護があったらしく、その恩に報いるために捜索していた。

 その動機を聞いて。

 王国にとって主戦力の剣姫マリア。

 その損失を近隣諸国に知られては、砦の一戦同様に第二、三の戦が勃発する。

 一刻も早い身柄の保護が必要だった。

 もっとも、死んでいないのなら……の話。

 重ねるように国王として依頼。

 これをタガネは快諾した。

 その調査から少しして。

「目撃情報があったらしい」

「誰からの発信でしょうか」

「どれどれ」

 書状に付属していた物。

 それは目撃情報を提供してくれた人物から、タガネへと届けられた文書である。

 色褪せた紙が畳まれて同封されていた。

 それも確認し、国王が中を見る。

「北西部山岳地……マーデル、という人物だ」

「陛下、拝見させていただけますか?」

 宰相が書状を受け取る。

 そして紙面に目を走らせて顔をしかめる。

 一言でいうと。

 何とも晦渋(かいじゅう)な文章だった。

 真意を秘匿した暗号ではない。

 単に、字が汚い。

 国王が発信者の名で声が詰まったのもうなずける悪筆である。

 しかし。

「陛下、恐れながら」

「む?」

「これはマーデルではなく、『マダリ』です」

「ほう」

「山岳部では王宮や市井(しせい)とは発音とは異なります。あの剣鬼はそれらを心得ているから報告書に不備がない」

「つまり」

「この文書、まだ文に拙い者の記した物です。発音のままに書いたので、恐らくマーデルと間違えたのでしょう」

「なるほど、北の山出身なるお前にはわかるか」

 宰相がつい、と顔を逸らす。

 触れて欲しくない部分だったらしく、さしもの彼もその話題を厭うて無言だった。

 小さく苦笑して。

 すぐ国王が顔を険しくした。

 髭をたくわえた顎を手で撫でる。

 つまり。

 タガネもまた、情報提供者を知らない可能性がある。

 現地を訪れても、相手がわからない。

 これでは詳しい話が聞けないだろう。

 それよりも。

「これは、偽物か?」

「それは判りませぬが」

 猜疑心を高める国王。

 宰相が文書を読み返す。

「この辺り、あの宗教集団の根城と噂されていた場所では?」

「宗教?」

 宰相がうなずく。

 国王の訝る顔に、まるで誰かに聞かれるのを避けるように、耳に顔を寄せて小声で話す。

「各国を渡る魔神を崇拝(すうはい)する宗教です」

「魔神を?」

「そして、三大魔獣をその化身として崇める」

「その名は?」

 宰相が顔を歪める。

 少し息を吸って、間隔を矯める。

「魔神教団です」





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