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その頃。
王国に一報が届いていた。
早馬で届けられたそれは、剣鬼が調査としてとある土地を訪れる旨を伝達するための書状である。
宰相からそれを受け取って。
国王は中身をあらためた。
「ううむ」
「内容は……どのような物でしょうか?」
「……仕事が早い」
国王が笑みを浮かべる。
その顔の柔和な皺が深まった。
書状の内容。
タガネは独自に剣姫の行方を調べている。
少しして彼が帝国の革命家リクルを捕らえた一件で、剣姫からの援護があったらしく、その恩に報いるために捜索していた。
その動機を聞いて。
王国にとって主戦力の剣姫マリア。
その損失を近隣諸国に知られては、砦の一戦同様に第二、三の戦が勃発する。
一刻も早い身柄の保護が必要だった。
もっとも、死んでいないのなら……の話。
重ねるように国王として依頼。
これをタガネは快諾した。
その調査から少しして。
「目撃情報があったらしい」
「誰からの発信でしょうか」
「どれどれ」
書状に付属していた物。
それは目撃情報を提供してくれた人物から、タガネへと届けられた文書である。
色褪せた紙が畳まれて同封されていた。
それも確認し、国王が中を見る。
「北西部山岳地……マーデル、という人物だ」
「陛下、拝見させていただけますか?」
宰相が書状を受け取る。
そして紙面に目を走らせて顔をしかめる。
一言でいうと。
何とも晦渋な文章だった。
真意を秘匿した暗号ではない。
単に、字が汚い。
国王が発信者の名で声が詰まったのもうなずける悪筆である。
しかし。
「陛下、恐れながら」
「む?」
「これはマーデルではなく、『マダリ』です」
「ほう」
「山岳部では王宮や市井とは発音とは異なります。あの剣鬼はそれらを心得ているから報告書に不備がない」
「つまり」
「この文書、まだ文に拙い者の記した物です。発音のままに書いたので、恐らくマーデルと間違えたのでしょう」
「なるほど、北の山出身なるお前にはわかるか」
宰相がつい、と顔を逸らす。
触れて欲しくない部分だったらしく、さしもの彼もその話題を厭うて無言だった。
小さく苦笑して。
すぐ国王が顔を険しくした。
髭をたくわえた顎を手で撫でる。
つまり。
タガネもまた、情報提供者を知らない可能性がある。
現地を訪れても、相手がわからない。
これでは詳しい話が聞けないだろう。
それよりも。
「これは、偽物か?」
「それは判りませぬが」
猜疑心を高める国王。
宰相が文書を読み返す。
「この辺り、あの宗教集団の根城と噂されていた場所では?」
「宗教?」
宰相がうなずく。
国王の訝る顔に、まるで誰かに聞かれるのを避けるように、耳に顔を寄せて小声で話す。
「各国を渡る魔神を崇拝する宗教です」
「魔神を?」
「そして、三大魔獣をその化身として崇める」
「その名は?」
宰相が顔を歪める。
少し息を吸って、間隔を矯める。
「魔神教団です」




