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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話「境の逃げ宝」下編
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 街灯の光が点き始める。

 宵の空の下では町も彩りを変えた。

 賑々しい道々に咲く雑談には酒も交わされ、昼よりも野蛮で品は無けれど空気を温かくする。

 それを眺望する高さ。

 クレスが検問の壁の上に立つ。

 国境を囲う隔壁。

 それは飛び越えるとごろか、登攀(とうはん)すら許さない絶壁である。

 しかし、クレスには地形も高度も関係無い。

 影魔法での移動。

 それは光がある限り、何処へでも行ける。

 水中、岸壁、あるいは雲の上……。

 つまり。

 壁面を影となって登るのも容易だった。

 クレスは、眼下の獣国を見る。

「着いたぞ」

 そして.

 自身の影に()()()()()()、おもむろに中から何かを引っ張り出した。

 クレスの足元。

 そこからタガネが引き摺り出される。

 咳き込んで壁上(へきじょう)に倒れた。

「気分が悪い」

「突き落とすぞ貴様」

「月の無い夜は無能のくせに」

「だ、黙れっ」

 タガネの悪態に、クレスが顔を赤らめて怒る。

 そう。

 影の無い暗中。

 新月の夜や人手の届かない洞窟などは、クレスの影魔法が効果を失う。今宵は下弦の三日月、あと数日後の巡り合わせならクレスは役に立たなかった。

 タガネはふっと息を吐く。

 クレスの影魔法。

 闇の中では無効化されるが、有り余る利点があるので強力である。

 どんな人間にも気配を悟らせず動ける。

 他にも、他の影に取り付くどころか、自身の影に人や物を収容できる。

 今回はタガネを強引に影へと収め、壁上まで移動したのだった。

 二人は獣国を見回す。

「何処にいる?」

「あれだ」

 クレスが指し示す。

 そこには、一際大きな屋敷が建っていた。

 子爵家が住むくらいの、豪奢とは言えずとも他とは風致が異なる外見をしていた。

 そこにリクルがいる。

 昼間にクレスが調査して突き止めた。影ならば検問にも悟られない。その間、タガネは宿屋に預けた荷物を回収し、合流した次第である。

 これから獣国に侵入し、リクルを拉致する。

 それが作戦だった。

 タガネが目を凝らす。

「敵戦力は?」

「拳聖と、獣兵(じゅうへい)が三名」

「手強いな」

 タガネが呆れて笑った。

 クレスの麻酔で昏倒した拳聖。

 効果は丸一日に及ぶと聞いたが、もう戦力として復帰している。出会(でくわ)せば昼の再演となるだろう。

 あの拳が襲って来る。

 背筋を戦慄が撫で上げて武者震いがした。

 クレスが立ち上がる。

「屋敷内部まで影で潜入する」

「相変わらず反則だな」

「ふん」

 クレスが胸を張る。

「この力は誰にも負けない」

「何であの嬢さん(マリア)に付いてるんだか」

「くッ……お嬢様の許しさえ下れば、貴様なぞ殺してやれるのに」

「はい、移動頼むよ」

 体がクレスの影に沈む。

 そのまま壁面を滑り、地面を音もなく馳せる。雑踏の中に紛れても、誰も足下を通過していくクレスたちには気づかず。

 鼻の利く亜人種にも気取られない。

 そのまま、目的地まで。

「まずいッ!」

「は?」

 屋敷の直前。

 そこでクレスが立ち止まるや否や――タガネを引き摺り出した。

 自らも影から出て飛び退(すさ)る。

 何事かを尋ねんとして、タガネは腰元の剣が微動しているのに気づいた。付近で強力な魔力の反応を感知したのだ。

 何処かで起きている。

「結界だ」

 クレスが鋭い眼差しで辺りを見る。

「結界内部に影では入れん」

「役立たず」

 結界。

 ヴリトラ戦でもそうだが、主に物理的衝撃と魔力的衝撃に耐久する壁を敷いた力場(フィールド)。これらの二種が主に防御として用いられる。

 クレスが影で通過するのを避けた。

 これは後者の結界だろう。

 タガネは魔剣を抜いた。

「壊しても良いが……」

「奴らに悟られる」

「破壊と同時に影に隠れればいい」

「そうだな。」

 クレスが結界のある境界線を指差す。

 タガネが剣を振り上げた。

 破壊と同時に隠れる。

 相手に接近を知らせるが、その頃には内懐にいるだろう。

 ゆっくり剣を振り下ろし――。

「待ってたぜぇええ!!」

 頭上から轟く怒号。

 そして。

 二人の目前の道が爆発した。

 結界が内側から光の破片となって散る。

 タガネとクレスは爆風で吹き飛んだ。道の上を転がり、体勢を立て直して前を見る。

 土煙で視界が塞がれていた。

 しかし。

 爆心地から進み出る影が浮かぶ。

 先刻の声。

 それだけで概ね誰かはわかっている。

 タガネはげんなりしつつ、剣を構えた。

「早速か」

「面倒だな」

 クレスも短剣を握った。

 二人が警戒の眼差しを煙の中の人影に注ぐ。

 すると前景の煙を裂いて、眥に傷を持つ快活な笑顔が現れた。

 風が吹き荒れる。

「さあ、昼の続きと行こうぜ!」

「なぜ気づいた?」

「勘だ!」

「……野人めが」

 その悪態に。

 現れた男――拳聖バーズが笑って応えた。





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