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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」下辺
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 勇者マサトが飛び降りた。

 前庭へと降下する途中で落下速度が緩む。

 中空に魔法陣(まほうじん)が浮かび上がると、その上で直立のまま静止した。

 その場に体の重心を据えて構える。

 マサトは不敵な笑みを浮かべた。

「さあ、僕の見せ場だ」

 泰然(たいぜん)と立つマサト。

 牛頭は振り仰いだ先を睨むや、床を踏み砕いて跳躍した。

 タガネは瞠目して巨影を目で追う。

 マサト一人に処せる脅威ではない。

「ジル!」

「な、何だ?」

「跳ぶ!」

「…………了解!」

 簡潔的で短い言葉。

 ジルはそれでも意図をじゅうぶんに察した。

 タガネが走り出した。

 魔剣を上に掲げながら、少し手前で軽く飛び上がった。両足を揃えて、ジルの(ふところ)へと飛び込む。

 それに対し。

 ジルは小さく助走をつけて片足を振り上げる。

 タガネの両の足の裏。

 ジルの振り上げた(すね)

 それが、空中でしっかりと噛み合う。

「うぉらあッ!!」

 ジルが渾身の力で蹴り上げた。

 強力な打撃による援護を受けて、タガネは空へと飛び上がり、牛頭の背中を目指す。

 追いすがる気配を、尻尾の蛇が察知(さっち)する。

 牙を剥いて迎撃した。

「当たらんよ」

 その蛇の頭を()ねた。

 鋭い銀閃を見舞った後、タガネは魔剣を投擲した。切っ先が前へと向き、一直線に投じられた刃が牛頭の首筋に命中する。

 深々と脊椎(せきつい)に突き立つ。

 牛頭が首を振って唾液と血を撒き散らす。

 激痛による狂奔か、それとも()()を捉えられた反応か。空中で体勢が崩れて失速し、牛頭は緩やかにマサトの直下を通過して断崖と化した王宮の敷地に激突した。

 巨体が重力に従って地面へと落下する。

 タガネもその後を追った。

「来い――レイン!」

 タガネが叫ぶ。

 手を伸ばすと、牛頭の首筋から魔剣が離れた。

 血の糸を引いて、タガネの下に帰還する。

 それを見て。

 慌ててマサトが飛び降りた。

「ちょ、待てよ!?」

「ミスト!――落ちたところを狙え」

「了解」

 ミストが長杖を掲げる。

 杖先と石突に仄かな青の光が宿った。

 その手中で弧を描いて回旋させると、両端の移動した軌跡が残光(ざんこう)として刻まれ、その形に真空(しんくう)の刃が生成される。

 牛頭が地面に叩きつけられる。

 その瞬間。

 ミストが最後に杖を軽く揮った。

 輪状の鋭い風が前庭を(はし)る。

 立ち上がった直後の牛頭。

 その胴体を駆け抜けて寸断した。断面から溢れた血潮で地面が染まる。

 しかし。

『ブルルルモオオオオオ!?』

「……速すぎます」

 ミストが顔をしかめる。

 牛頭の胴体は二つに分かたれた。

 それなのに、真空の刃が通過した一瞬の後には切断された体内の血管、筋肉などの組織、重要な生命器官だけが即時(そくじ)再生されたのである。

 迸る流血は表面の外傷のみ。

 致命傷として不足している。

 牛頭が大剣と戦斧を高く振り上げた。

 双方が異色に発光する。

「剣だけじゃないのかよ!?」

「フィリア、結界を展開します」

「分かりました!」

 二人が牛頭の正面に立つ。

 即座に結界を展開するが、牛頭の挙動は止まらない。

 全員は衝撃に備えた。

 牛頭が結界に全力を叩きつけようと前傾姿勢になったとき、タガネが回転しながら魔剣で牛頭の首を刎ね跳ばす。

 血飛沫が噴き上がった。

 決着を確信して一同の表情が――凍った。

 牛頭の両腕は未だに止まらない。

 振り上げた武器の高さが最高点に達する。

 あとは振り下ろすだけ。

 牛頭の筋肉が膨らみ、後の暴虐(ぼうぎゃく)だけを予感させる。

 タガネは跳躍した。

「間に合うか――っ!?」

「『朝空断ち(ソル・イクリプス)』!!」

 牛頭の頭上で放射状に散る光芒が咲いた。

 気合を込めたマサトの一撃が牛頭の首に叩き込まれる。

 第二の太陽が炸裂し、前庭が光に包まれた。






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