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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」下辺
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 タガネは駆け出した。

 体はすでに行動可能なまでに回復している。

 だが、そんなことは念頭(ねんとう)にすら無い。

 視界を満たす土煙の中にマリアを探す。

 魔剣の一閃を放った。

 剣圧(けんあつ)による風で、辺り一帯を斬り払う。

 マリアがいない。

 魔法剣が直撃したようにも思えた。

 マリアの銀剣は、名工(めいこう)が打った逸品とはいえど魔法の暴力に耐久しうるだけの性能までは皆無なのだ。

 至近距離であの爆撃。

 人体が持つ耐久度を超える。

 タガネは必死で彼女の姿を模索した。しばし経って、煙中(えんちゅう)に紺碧の貴影を見出した。

 その傍にミストがいる。

 二人を中心にした半球状(ドーム)の結界が展開されていた。煙幕が晴れて、露になった魔力の光を目にしてタガネも安堵する。

 寸陰(すんいん)の出来事。

 魔法剣よりも速い防御の実行だった。

 タガネは二人へと近寄る。

「無事かい」

「あ、アンタね……忠告が遅い!」

「うん?」

「危うく初っ端で死んでたわよ!?」

「……惜しかったな」

「はあ!?」

 マリアが胸ぐらをつかむ。

 ミストがそれを恨めしそうに見た。

「戯れはそこまでにして」

「戯れてないわよ!」

「次、来ます」

 ミストが忠告する。

 その直後に前方の煙が吹き払われた。

 牛頭が頭を低く下げて肉薄してくる。

 結界へと、湾曲した一対の角の尖端が激突した。物理的衝撃は術者(じゅつしゃ)に伝わるため、ミストの体が大きく揺れる。

 咄嗟にマリアが支えた。

 その間も猛然と牛頭が攻撃を繰り出す。

 二人を仮借ない衝撃が襲う。

 それを見かねて。

 タガネが結界との間に体を躍らせた。

 唐竹割りに振り下ろされた大剣の重圧を、横へと剣撃で(さば)く。

 斬りざまで無防備な牛頭の足下に飛び込み、その逆側に折れ曲がった部位に剣尖(けんせん)を突き込む。固い皮膚と筋肉の(たて)を貫通し、足根骨(そっこんこつ)を破壊した。

 牛頭が堪らず体勢を崩す。

 その場に片手を突いた。

「待たせたな、剣鬼!」

 背後からジルが牛頭に飛びかかる。

 腰骨めがけて戦斧の刃を叩きつけた。

 牛頭が悲鳴を上げる。――が、その直後に再生していた尻尾の蛇が顎を大きく開けてジルに迫った。

 慌てる彼の間に透明に光る壁が立つ。

 フィリアの魔法だった。

 蛇の頭が壁面に激突して跳ね返る。

 牛頭の大剣が光を帯びる。

 高々と振りあげられ、そして――。

「なっ」

 切っ先を足下に突き刺した。

 牛頭の足元から波状の紫光が拡散する。

 自爆覚悟の一撃!

 タガネは荒れ狂う光の波を剣で斬り払う。波紋の回折のごとく、散逸した魔法剣の威力が遠い後方の建物を爆破した。

 魔剣から伝わる痺れ。

 手応えからも途方もない魔力だった。

 牛頭が戦斧を振り回す。

 全方位へ一回転、乱暴に薙ぎ払った。

 ジルは防壁に守られ。

 タガネは魔剣ごと後方に弾き飛ばされる。その剣圧で意識も飛んだ。

 気絶して宙を舞う。

「タガネさん!」

 フィリアの悲鳴混じりに叫ぶ。

 その声に呼び起こされ、背転しながら地面に剣を突き立てて静止する。

 タガネは剣にすがって立つ。

「強いな…………」

 心底からの感想が漏れた。

 その体格と膂力もさることながら体内の魔素の量。幾ら乱発しても一向に底をつく様子が見えない。

 あと一手足りない。

 ミストが攻勢に回っても好転する兆しは無いように思えた。

 決定打が欲しい。

 あの牛面に潜む『核』を打てる切り札。

 その考えを巡らせていると。

「おや、苦戦か――剣鬼さん!」

「……この声」

 頭上から高らかに上がる声。

 牛頭が声のした方を振り仰ぐ。

 タガネたちもそちらを見上げて驚いた。

 城下町と繋がる階段を失った王宮、その前で日差しを背にする青年がいた。

「僕が助けてやろう」

「――白々しい……」

 タガネは思わず悪態をつく。

 まるで、この機を見計らっていたように。

「行くぞ、魔獣!」

 あの勇者マサトが現れた。






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