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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」下辺
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 同時刻。

 アヤコは王宮の一室にいた。

 そこで二人から魔法の指導を受けている。

 防衛や治癒に長けたフィリア。

 攻撃に特化しているミスト。

 勇者という資質もあり、二人が有する通常とはかけ離れた肌感覚の魔法説明にも対応し、その心得を着実に深めつつあった。

 教え応えがあり、二人も熱を込める。

 それを傍らからマリアは眺めた。

 この作戦。

 アヤコの魔法鍛錬は良策に見える。

 ただ、一方でこれはタガネの犠牲を容認して機能しているのである。後に責め立てられるのは彼一人なのだ。

 自身の犠牲は甘んじる。

 タガネの考え方が釈然としなかった。

 物思いに耽って険相のマリア。

 そこへ。

「失礼、こちらに剣姫殿は?」

 扉の向こう側から男の声。

 カルディナだった。

 マリアはすぐに応えて扉を開ける。

 赤い重甲冑が凛と佇んでいた。

「少し話があるんだが」

「私に?」

「君だからこそ、さ」

 マリアは小首をかしげた。

 意図もわからないまま通路へと出る。

 扉を閉めて。

 改めてカルディナと正面に向き直った。

「話って?」

「タガネくんのことさ」

「……勧誘の話なら本人にして」

「違うさ」

 カルディナが苦笑する。

 マリアは警戒に視線を鋭くした。

 決闘場でもしかり、タガネに対する距離感が親しげだが、それはかなり一方的なものだった。遠慮気味な彼に詰め寄っているようにも見える。

 果たして。

 目的は何なのか。

「何が目的?」

「私は一刻も早く彼を保護したい」

()()……?」

「それが私の贖罪なんだよ」

 言葉の真意を推し量れない。

 マリアは一歩、後退(あとずさ)った。

 この男は根本から何か違う。

 親しげに接していた国王とも、彼を猟奇的に狙う男の目とも異質である。

 まるで。

「アイツに対して罪悪感があるの?」

「私の不始末が原因なのさ」

「……何のこと?」

「彼の母親は知ってるかな?」

 マリアは耳を疑った。

 タガネの母親――について問うている。

 カルディナは微笑んでいた。

「一緒に旅してるときに、少しだけ」

「では、故郷については?」

「最低な父親と、ひどい村の連中も聞いた」

「なるほど」

 カルディナは笑みを崩さない。

 それどころか確信を深めるようだった。

 マリアの脳裏に。

 一つの考えが浮かび上がる。

「母親と知り合い?」

「初めて会ったときだ」

「は?」

「すぐ判ったよ、彼女によく似た顔だったから」

 マリアの言葉など気に留めず。

 カルディナはどこか遠くを見るようだった。

 タガネは母親に似ている。

 たしかに、彼はどちらかといえば女顔だった。

 (おぞ)しい異名と噂を携えて、それでも浮世離れした美貌で戦場に立つ。そこから母親がいかに美しい人だったかというのが窺い知れる。

 タガネ本人も自嘲気味に語っていた。

 カルディナは。

 母親の顔を知っている。

「どうしてアイツに拘るのよ」

「はは、どうしてかと?」

「…………」

「決まっている」

 カルディナが薄く笑う。

「息子が心配だからさ」

「はあ?それって、どういう――」

 そのとき。

 慌ただしい足音が響く。

 二人が振り返る先で、ナハトとロビーが通路を駆け巡っていた。マリアを見咎めるや、素早く方向転換して直近まで寄る。

 何事か。

 マリアが問うよりも先に。

「報告です。街が魔獣に襲撃されています」

「はあ!?」

「現在、王宮に迫る個体と剣鬼が交戦。至急増援に向かって下さい」

「ちょ、街、魔獣?」

 市街に魔獣が出没する。

 そんな話は聞いた憶えが無い。

 しかも、王宮の近くまで差し迫っており、タガネが出動していること。どれもこれも驚愕を味わわせる物だった。

 その隣で。

 カルディナが前に出る。

「魔獣は一体か?」

「街の様子から察するに複数かと」

「わかった。マリア君は先に行け、私は可能な限りの戦力を召集して討伐及び救助活動に取り掛かる」

「りょ、了解よ」

 声を聞きつけて。

 一室の扉が開け放たれた。

 マリアとミスト、アヤコが黙って出て来る。

「我々も」

「同行します」

「心強いわ」

 カルディナたちに背を向けて走り出す。

 そのすれ違いざまで。

「タガネくんを頼むよ」

 喜悦とも憂慮とも取れない声。

 マリアは振り払うように頭を振って駆けた。





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