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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」下辺
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 王都の入口。

 街道と繋がる検問は人が少なかった。

 国の中心とあって、物と人の流れは年中多いはずなのだが、今日は広い道幅が索漠としている。

 都から出ていく者はいても。

 検問を通過して入ろうとする者はいない。

 検問に構える老兵が小首をかしげる。

「何事だろうか」

「人が少ないですね」

 老兵の言葉に。

 もう一人の番兵の青年が応える。

 彼も検問に務めて約二年。

 それ以前は王都の警備の最先端として睨みを利かせ、他国との戦争でも戦果を上げた実力者である。

 その経験があるからこそ。

 人の少ない街道に異様なほど胸騒ぎがする。

 本能が訴えていた。

 何か、危険が差し迫っている。

「先方で山賊が出たか?」

「近辺でそのような報告はありません」

「なら、何だ……?」

「ケティルノース襲来もまだ市井の人々は知らないようですし」

「人気が無いのは怪しい」

 青年は街道の先に目を凝らす。

 誰一人といないので遮蔽物は無い。

 見晴らしがよく、果てまで続くような街道の先が見えた。

 そして。

「ん?」

「どうした」

「あそこ、何か見えませんか?」

 老人も街道の先を注視する。

 澄んだ冬の景色の中、うごめく影がある。

 人の形のようにも思えた。

 それにしては――。

「大きい」

「気をつけろ」

 二人が構える。

 すると。

『もぉおおおおおお!!』

 猛牛の雄叫びに似た声。

 危険な獣性に満ちたそれに、二人の背筋を戦慄が駆け上がる。

 人ではない!

 なら、その正体は魔獣に限る。

 まさか、人がいないのは影の正体が人を鏖殺して進行しているからなのか。

 そんな不穏当な予見を裏付けるように。

 影が大きく躍動して近づく。


 数分後。

 検問は血の海と化した。

 王都の中へ、赤く刻まれた偶蹄類の足跡が続いていく。






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