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王都の入口。
街道と繋がる検問は人が少なかった。
国の中心とあって、物と人の流れは年中多いはずなのだが、今日は広い道幅が索漠としている。
都から出ていく者はいても。
検問を通過して入ろうとする者はいない。
検問に構える老兵が小首をかしげる。
「何事だろうか」
「人が少ないですね」
老兵の言葉に。
もう一人の番兵の青年が応える。
彼も検問に務めて約二年。
それ以前は王都の警備の最先端として睨みを利かせ、他国との戦争でも戦果を上げた実力者である。
その経験があるからこそ。
人の少ない街道に異様なほど胸騒ぎがする。
本能が訴えていた。
何か、危険が差し迫っている。
「先方で山賊が出たか?」
「近辺でそのような報告はありません」
「なら、何だ……?」
「ケティルノース襲来もまだ市井の人々は知らないようですし」
「人気が無いのは怪しい」
青年は街道の先に目を凝らす。
誰一人といないので遮蔽物は無い。
見晴らしがよく、果てまで続くような街道の先が見えた。
そして。
「ん?」
「どうした」
「あそこ、何か見えませんか?」
老人も街道の先を注視する。
澄んだ冬の景色の中、うごめく影がある。
人の形のようにも思えた。
それにしては――。
「大きい」
「気をつけろ」
二人が構える。
すると。
『もぉおおおおおお!!』
猛牛の雄叫びに似た声。
危険な獣性に満ちたそれに、二人の背筋を戦慄が駆け上がる。
人ではない!
なら、その正体は魔獣に限る。
まさか、人がいないのは影の正体が人を鏖殺して進行しているからなのか。
そんな不穏当な予見を裏付けるように。
影が大きく躍動して近づく。
数分後。
検問は血の海と化した。
王都の中へ、赤く刻まれた偶蹄類の足跡が続いていく。




