2
剣を振るアヤコ。
その姿を横で二人は眺めた。
健康的な肌の色、細い腕、この世界より整った倫理観、剣を目の当たりにしたときの驚いた表情、そして戦と聞いた瞬間に覗かせた怯え。
それらから察するに。
異世界は強い平和的秩序で守られている。
タガネは眉をひそめた。
「やはり得心がいかんな」
「何がよ」
「参謀たちの意向だ」
タガネは腕を組んだ。
アヤコに剣術の上達が見込めない。
これまで半月を費やした鍛錬でも、未だに基礎で難儀している。タガネの剣技じたいに型がないので、素人が迷走してしまうことも否めない。
それでも。
アヤコは絶望的なほど剣才が無い。
「何となく読めたな」
「説明しなさいよ」
「女勇者の鍛錬が捗捗しくないことを材料に、俺を責め立てる心算だ」
「…………」
沈黙しつつ。
マリアも納得した。
アヤコの強化が粗末に終われば、監督していたタガネに責任が問われる。
その根拠。
それはマサトとの方針の差異。
魔法剣が元より卓越していた彼は、参謀たちから長所をさらに追究するよう命令されたが、魔法が元より得意なアヤコだけは不得手な剣術の上達を求められる。
初めからマサトと初速に差がつく。
強化訓練が結実するのは遠い先になる。
何より、指導役にタガネを推挙した点。
これが不自然にすぎた。
マリアならば納得だが、なぜかタガネだった。
前者ならば、相手の緊張を解く意味でも、その道に通じる女性として信頼や尊敬を抱かせ、指導などにも幾らかの優位性が生じただろう。
それすらもなかった。
まるで。
「使い捨て、だな」
「そしてアンタは邪魔者ね」
「やれやれ」
首を横に振って呆れる。
覚悟を決めて訪れた討伐軍での不遇。
早くも敵意を集めた自身の幸先の悪さを自嘲する。
カルディナの注進が脳裏に蘇る。
現在の剣鬼は、一つの脅威。
その認識は固く、払拭しがたい。
「相変わらず嫌われ者か」
「そうね」
「ただ……あの小娘は」
アヤコを見やる。
独り集中して、ひたすら剣を振っている。
その豊かな黒髪の毛先から汗が散るほどに、その細腕に全力を絞っていた。
不服な剣の鍛錬。
それでも骨身を惜しんでいない。
何事にも力闘する本人の気質か、それとも自暴自棄になりそうなのを堪えるべく剣に集中しているのか。
或いは、その両方。
どちらにしても。
勝手に異世界へ喚ばれ、その末で使い捨てにされるアヤコの心境を推し量って、タガネは無粋だと即座に切り捨てる。
指導役を承った以上、責任は持つ。
それが今のタガネの覚悟。
アヤコが使い捨てになる未来も、自分が呵責を受ける事態も避けたい。
膝を叩いて。
ステップから腰を上げた。
「指導方針を変えるか」
「私に手伝えって?」
「いや、ミストとフィリアを頼る」
「……………はあ?」
意図がわからず。
マリアは眉を顰める。
その前で、タガネだけは企み顔でくつくつと笑っていた。




