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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」下辺
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 勇者召喚から半月が経過した。

 ケティルノースの足音はまだ遠い。

 勇者マサトの素行は改善され、最近はカルディナ指導の下で戦術の稽古(けいこ)に励んでいる。

 ただタガネを目の敵にはしていた。

 事あるごとに彼と張り合う日常。

 ただ順調に成長していた。

 ただし――。

 それと並行してある問題も発生してた。


 昼下がりの庭園。

 小さな池と蒐集された草木に彩られた景色の中で、日射しを照り返す剣の輝きがまぶしい。

 鈍い風切りの音で空気が軋む。

「剣の重みを噛み締めろ」

「はい」

「握り手は振るとき以外は弛緩させときな」

「はい」

 マリアは不機嫌面だった。

 庭園で鍛錬に熱を注ぐタガネと――勇者アヤコ。

 参謀たちの命令により、アヤコの指導役にはタガネが抜擢(ばってき)された。当初は各国の指南官などを拒否していた理由に同じく、人に教示することが苦手だと本人は反対していた。

 その抵抗も空しく。

 いまアヤコの剣を鍛えている。

 その様子をマリアは傍観(ぼうかん)していた。

「ふん」

「そこで剣を……」

 そんなマリアを。

 タガネは気に留める素振りすらない。

 あまつさえアヤコの手を握っていた。

 握り方から振り方、基礎を丁寧に教え込んでいる。人に伝授することの難しさで慎重になって、平生のタガネらしからぬ優しい指導である。

 マリアはそれが気に食わない。

 アヤコが膝を突く。

 体力の限界に到達した腕が震えていた。

 そっとタガネは剣を取り上げる。

「休憩にするかね」

「は、はい」

「立てるか?」

「だ、大丈――わっ!」

 立ち上がろうとして。

 体勢を崩したアヤコを、タガネが支える。

 わずかにアヤコの顔が紅潮した。

 タガネはその変化も知らず、一つ嘆息して両腕で抱え上げる。

 庭園のステップの上に降ろした。

「ありがとうございます」

「いや、別に」

「ふん」

「……マリア?」

 ようやくマリアに気づく。

 タガネは小首を傾げて彼女を見遣った。

 不平顔の彼女の心が読み取れない。

「どうした」

「指導役を引き受けたのね」

「上からの圧が凄いんでね」

「アンタなら跳ね除けそうだけど」

「……………」

 タガネは首を横に振る。

 受けざるを得なかった。

 先日のマリアとの婚約で、幾らか討伐軍を騒がせ、主戦力と期待した勇者を決闘で鼻っ柱を叩き折った迷惑をかけた手前である。

 その上で討伐軍の意向にすら背けば、ケティルノース以前の敵ができ上がる。

 (はなは)だ不満ではあるが。

 指導役を受けるのが最善だった。

「それで、おまえさんは?」

「私?」

「やること無いのか」

「無いわよ、基本は」

 マリアはつん、と唇を尖らせる。

 邪魔だと言いたいのか。

 そう訴える顔にタガネが困惑した。

 その袖を、アヤコが摘んで引く。

「もう動けます」

「無理するな」

「大丈夫」

 タガネの腕に縋って立ち上がる。

 マリアが慌てて止めた。

「まだ休んでなさい!」

「でも、剣の稽古が――」

「闇雲にやっても却って身につかんよ」

「……はい」

 アヤコはうつむいて座り直す。

 剣術の腕の上達具合は(かんば)しくない。

 マサトは魔法剣、アヤコには魔法の適性があった。

 だが。

 討伐軍の参謀は苦手分野の克服による万能化を要求し、アヤコには剣術を磨くよう命じた。

 目標はタガネほど。

 人が企及(ききゅう)しうる域ではないタガネの剣術が目標と設定され、アヤコとしては非常に重圧となっていた。

 そこへの不安と、絶望。

 日々のアヤコの表情から(ひし)と伝わってくる。

 タガネは肩を竦めた。

「どうするかね」

 ケティルノース到着予定まで一月半。

 タガネとアヤコ。

 二人に課せられた一つの試練となっていた。





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