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庭園から離れた場所で。
マタニルと勇者は一室に逃げ込んでいた。
そこには討伐軍の参謀たちが集合しており、入室した二人を迎える。
マサトは円卓のそばに立った。
マタニルが敬礼の構えを取る。
鷹揚に手を挙げた一人が席から腰を上げる。
「決闘は失敗したか」
「だって、アイツが……!」
「ふん」
マタニルが顎に手を当てる。
深刻そうに眉間にしわを深く刻む。
「初期段階とはいえ」
「勇者を降すとはな」
侮るべからず、剣鬼タガネ。
一同の意思がそう合致していた。
ベルソートと個人的な紐帯を結び、魔剣に続いて別の魔兵器を携えている。以前から各国がその一挙手一投足に注目していたが、いよいよ剣鬼単体の脅威はケティルノースに次ぐ事案となっていた。
精鋭の傭兵で構成された剣鬼隊。
二種の魔兵器。
比類なき剣技。
タガネの有する戦力は無視し得る範疇を逸した。
何より。
神の典型を授かった勇者を倒す。
この決闘は参謀たちが仕組んでいた。
マリアを火種にし、因縁をつけて決闘へと誘い込む。戦いが白熱化していき、最後は過った体を演じて仕留める。
その算段があった。
分身という卑劣な手であるとはいえ、成功の寸前まで届いた。後の外聞は、権力によって幾らでも揉み消せる。
カルディナの妨害さえなければ。
「あの男は手強い」
「恐ろしいな、あれが『覇刃』」
「傭兵ながら騎士のように正義を貫く男だ」
そのとき。
参謀の一人が笑声を上げた。
「それは外面だ」
「ほう?」
「ヤツはな、数年前から一人の小僧に執着しているのだよ」
「ヤツも剣鬼を?」
その問に首肯する。
この討伐軍の中枢が、たった一人の傭兵によって騒然となっていた。誰も彼もが、あのタガネを求めてうごめいている。
策謀を巡らせているのは、ここだけではない。
カルディナも裏で工作している。
「そういえば」
「片割れの勇者の任はどうした?」
「実行中です」
「アヤコも何かしてるの?」
マサトの言葉に誰も応えない。
マタニルが一度だけ彼を見て、再び円卓に向き直る。
「どうあっても」
「剣聖の誕生を阻止せねば」
円卓の中心に。
束ねられた悪意が暗く燃え盛った。
ここまでお付き合い頂き、誠に有り難うございます。
八話=修羅場=タガネ君を巡って、男女問わず剣呑になる。




