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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」上辺
190/1102

10



 庭園から離れた場所で。

 マタニルと勇者は一室に逃げ込んでいた。

 そこには討伐軍の参謀たちが集合しており、入室した二人を迎える。

 マサトは円卓のそばに立った。

 マタニルが敬礼の構えを取る。

 鷹揚に手を挙げた一人が席から腰を上げる。

「決闘は失敗したか」

「だって、アイツが……!」

「ふん」

 マタニルが顎に手を当てる。

 深刻そうに眉間にしわを深く刻む。

「初期段階とはいえ」

「勇者を降すとはな」

 侮るべからず、剣鬼タガネ。

 一同の意思がそう合致していた。

 ベルソートと個人的な紐帯を結び、魔剣に続いて別の魔兵器(まへいき)を携えている。以前から各国がその一挙手一投足に注目していたが、いよいよ剣鬼単体の脅威はケティルノースに次ぐ事案となっていた。

 精鋭の傭兵で構成された剣鬼隊。

 二種の魔兵器。

 比類なき剣技。

 タガネの有する戦力は無視し得る範疇(はんちゅう)を逸した。

 何より。

 神の典型を授かった勇者を倒す。

 この決闘は参謀たちが仕組んでいた。

 マリアを火種にし、因縁をつけて決闘へと誘い込む。戦いが白熱化していき、最後は(あやま)った体を演じて仕留める。

 その算段があった。

 分身という卑劣な手であるとはいえ、成功の寸前まで届いた。後の外聞は、権力によって幾らでも揉み消せる。

 カルディナの妨害さえなければ。

「あの男は手強い」

「恐ろしいな、あれが『覇刃』」

「傭兵ながら騎士のように正義を貫く男だ」

 そのとき。

 参謀の一人が笑声を上げた。

「それは外面だ」

「ほう?」

「ヤツはな、数年前から一人の小僧に執着しているのだよ」

「ヤツも剣鬼を?」

 その問に首肯する。

 この討伐軍の中枢が、たった一人の傭兵によって騒然となっていた。誰も彼もが、あのタガネを求めてうごめいている。

 策謀を巡らせているのは、ここだけではない。

 カルディナも裏で工作している。

「そういえば」

「片割れの勇者の任はどうした?」

「実行中です」

「アヤコも何かしてるの?」

 マサトの言葉に誰も応えない。

 マタニルが一度だけ彼を見て、再び円卓に向き直る。

「どうあっても」

「剣聖の誕生を阻止せねば」

 円卓の中心に。

 束ねられた悪意が暗く燃え盛った。





ここまでお付き合い頂き、誠に有り難うございます。


八話=修羅場=タガネ君を巡って、男女問わず剣呑になる。



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― 新着の感想 ―
[一言] ケティルノースを単独では倒せないから戦力をかき集めたのに、その戦力を削る様な余裕を見せるとは。 矛盾してるな。
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