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討伐連合軍の主力が顔を揃える。
その最中。
別の部屋では、また違う集会が催されていた。
実際に戦場に立つ者とは別の勢力。
この大規模な戦役で、軍を軍たらしめるための運営を賄うのは腕力だけではない。その武器や食糧など、戦士の調子を最善にする参謀が要る。
すなわち。
軍の指針となる人員だった。
円卓を囲って、早くも策に思考を巡らせながら険のある眼差しを互いに交換している。
本来なら戦で相見える顔である。
それが互いの存続のための紐帯を結ばざるを得なくなり、業腹な現状への不満一切を呑んで席に着く。
そうして。
ようやく全員が集った。
「……総司令官は?」
「戦士たちへの謁見と説明だ」
「……あの勇者、か」
一人が深刻そうにつぶやく。
言葉の端に滲んだ感情は、全員が共有している物だった。
異世界人。
この世界とは何ら関わりも無い部外者だが力はあり、無知とあって利用しやすく、ただ戦を知らず油断しきった点を除けば最大戦力にも化ける。
まだ戦力の完全集結も未完了。
対抗戦力の増強なら、『この世界』でも為遂げられたかもしれない。
それでも。
召喚せざるを得なかった。
「そうだ、『剣聖』は危険だ……」
「あの『レギューム』が認めるとはいえ……」
「誕生は避けたい」
彼らが最も避けたい事態。
それは――『剣聖』という英雄の誕生である。
魔神による被害から学んだ世界。
魔獣関連――特に三大魔獣の事案への対処ならば、国境などなく解決に当たることが条例として定められた。
ただし。
それらは脅威の大きさで規模が変わる。
その裁量を判断するには、これら世界を束ねる権勢が必要とされた。
そこで。
各大陸に囲われたレギューム地中海の中心にある孤島を世界の中心にして平和の象徴と定めた。
――『レギューム』。
その地を治めるは、各大陸から選ばれた者たちであり、世界を一つに統括する指示をくだす。
誰も逆らうことはできない。
だが――。
「あり得んだろう」
「そんな物は危険だ」
ケティルノース討伐。
その期待を背負う二人の剣士がいる。
亡国の英雄である剣姫マリア。
傭兵として旅する剣鬼タガネ。
この両名のどちらかが、ケティルノース討伐後には剣聖として祭り上げられ、世界に唯一無二であり、どんな権力でも絶対不可侵となる一つの地位を授けられる。
爵位は『剣爵』。
地位と名誉がレギュームに約束されている。
剣姫に救われた国たち、剣鬼と繋がりのある国らはこれに賛成しているが、その他はこれを危険視していた。
彼ら以上に活躍し、ケティルノースを斃す。
つまり。
それを阻止するための『勇者』召喚。
「これが吉と出るか」
「凶と出るか」
「その賽は投げられた」
「あとは勇者の成長と働きに期待しよう」
円卓の面子の目に。
仄暗い意思の焔ぎ滾った。




