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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」上辺
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 前提を眼下に望む高さ。

 やや乱暴な案内を得て王宮へと入る。

 城門は無かった。

 柱が林立する吹き晒しの入り口を進む。通路ですれ違う文官と思しき人物たちも、まるで神官(リスカルナ)の着る純白の詰襟のローブに身を包む。

 天井に刻まれた神々の絵。

 穴の空いた天蓋から差す光が通路を照らす。 

 その風致は城というより神殿(リンフェル)

 荘厳(そうごん)な雰囲気に。

 進んでいるタガネは始終驚いていた。

「これが王宮かい……」

「アンタ、来るの初めてなの?」

「ああ」

「珍しいのね」

 初見であると首肯した。

 経験として。

 リューデンベルク王国自体が初めてである。

 マリアとしては、戦力的にも野放しにするには惜しい剣鬼に、いちどはリューデンベルクも勧誘の手を伸ばし、王宮に招いていると予想していた。

 何より各地を放浪するタガネ。

 見聞を広めるべく、訪れた地は数多い。

 大陸でも名高い最強の国家に、その足を運んでいないなど思いもしなかった。

 だが、マリアも知らない。

 そこに例外が存在していた。

「いい国よ、ここは」

「こんな陰険(いんけん)な国はごめんだね」

「ええ?」

 マリアには理解できなかった。

 繁栄を続ける最強国家。

 侵略を受けても常勝無敗(じょうしょうむはい)を誇る戦歴がある。

 暮らせば安泰(あんたい)

 穏やかな日々が過ごせる場所である。

 だからこそ。

 タガネは避けていた。

 定住地としても、仕事場としても。

「意外だわ」

「俺はこの国が嫌いなんでね」

「けっこう栄えてるわよ?」

「……そりゃ良いんだが」

 タガネは直近の支柱を見やる。

 進行方向の右手。

 その柱の陰に気配を消した詰襟服がいた。

 マリアは気づく素振りもない。

 否、その気配を気取ってすらいない。

 剣姫からも存在感を隠すほどの文官など存在しない。タガネの予想が(あやま)っていなければ、あれは文官を(よそお)った兵士である。

 二人が通り過ぎるのを静観していた。

 やがて姿が見えなくなり。

 タガネは安堵の息をふかく吐いた。

「何よ」

「いや、手厚い洗礼だと」

「は?」

 タガネは真意を伏せて笑う。

 やはり、リューデンベルクは危うい。

「おまえさんも」

「私?」

「討伐後はここから手を引きな」

「何か腹立つ言い方ね」

「心配だから忠告してんだよ」

「心、配…………」

 心配の一語にマリアが固まる。

 そんな彼女の反応も知らず。

 タガネは神経を研ぎ澄まして気配を探る。

 傭兵には、規律などが特に設けられていない。

 基本的に。

 依頼内容へ誠実に応え、報酬額をきっちり受け取る。

 滞在国の法を犯さない。

 無益な殺生だけは回避すること

 それだけが普遍的(ふへんてき)な絶対条件だった。

 しかし、傭兵として仕事を重ねた者のなかで隠然と警告として伝わる了解が存在する。

 それは。

 リューデンベルクでの(いさお)は命取り。

 軍事力の最高峰(さいこうほう)

 そこでは軍役の力が絶対であり、仮に武功を立てて王宮の目に留まり、正規軍で高位の役職(ガルティモ)を与える内容の勧誘などを承諾すると、その正規軍から嫉視(しっし)が募り、闇討ちに遭う。

 たとえ戦場の猛者でも。

 不審な()()での落命が後を絶たない。

 先刻の文官に扮した何者かも、王宮に重要戦力として招聘(しょうへい)されるタガネを妬んで自らか、それとも何者かの手引で(けしか)けられた凶刃である。

 誰もが命を惜しんで避けるのは道理。

 その例に漏れず。

 ずっと、タガネもこの国を避けていた。

「ふ、ふん!」

「なんだい」

「アンタなんかに心配されるほど弱くないわ!」

「せめて冥福(めいふく)を祈る」

「まだ死んでないわよ!?」

「おまえさん能天気だな」

「はあ!?」

「さて、着いたようだ」

 二人は足を止める。

 玉座の間の扉は開いていた。

 中は赤い絨毯が一筋だけ長く進み、その終端に構えた玉座と、俯瞰すれば支柱によって二重(ふたえ)の円となった広間になっている。

 そして。

 タガネは玉座の近くに複数名の姿を認めた。

 いずれも名のある戦士たち。

 一度だけ肩越しに後ろをかえりみた。

「何してんのよ」

「……いや、別に」

「はやく行くわよ」

 マリアが急かす。

 タガネは玉座の間へと踏み込んだ。

 その後ろで。

 ゆっくりと扉が閉められた。





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