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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」中央
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 防壁の外側では。

 一軒の平屋が占拠されていた。

 内装は荒らされ、本来の住人は一室に縄で(いまし)められている。口は一枚の手拭いで固く封じて放置していた。

 そして。

 少女が防壁を窺う窓を開ける。

 やや高い位置にあるそれは、齢が十四となる頃の背丈で窓外を覗くには難しかった。取手が下部についていたのが幸い、だが景色までは見えない。

 少女が爪先立ちになって再挑戦を試みる。

 それでも届かない。

 上下運動に合わせて肩口で白い髪が乱れ、金色の双眸が届かない苦心に苛立ちで揺れる。

 小さな口を尖らせて。

「無理」

「姫さん、手ぇ貸すぜ」

「姫じゃない。――レイン」

 背後から。

 少女レインの脇に手を差し込む大男。

 槌鉾を背負い慣れた体力は、軽々と窓の高さまで彼女を持ち上げた。

 ようやく窓外の景色が見えた。

 少女の額を風が撫でる。

「多分、あそこに」

「タガネ、いる」

「感じるか」

「タガネのぽわぽわを感じる」

「ぽわ………」

 独特の表現に首を捻り。

 大男はゆっくり少女を床に下ろした。

 その背後で、複数人の男たちが剣の刃を()いでいる。家の外から、大きく膨らんだ麻袋を担いだ二人が戸口を潜って入った。

 大男――ジルは全員の顔を見回す。

「守備はどうだ?」

「用意できる分は完了しました!」

 その声に。

 ロビーがはっきりと応える。

 ジルは満足げに頷いた。

「ここまで来て、未完了じゃ困るわな」

「でも、これで」

「二人とも救えるな」

 全員の前にレインが立つ。

「よし、俺たち剣鬼隊あらため、『レイン隊』の目的は二つだ!」

「タガネ」

「それとナハトの奪還だ!」

 ジルが胸を叩いて宣言する。

 南軍第一砦を陥落させて間もなくして。

 約束の日に剣鬼隊は連合国北部にある孤児院を訪れた。

 ただ、そこに標的は来なかった。

 ナハトの(した)う修道女はおり、話を聞けば子供を全員買い取った後であり、先んじて襲撃の情報をつかんでいた男によって(かわ)されたと知る。

 それでも収穫はあった。

 ナハトが剣鬼隊に宛てて、密かに残した書き置きを修道女が預かっていた。

 砦でロビーが気絶する前に聞いた内容と手紙に(つづ)られた情報を照合すると、敵は中央軍の要人であると判明したのである。

 すなわち。

 タガネを目的とした敵の現在地。

 それが中央軍の中枢だと推測した。

「ようやく、ここまで来たぜ」

「レインさんのお蔭だ」

「…………」

 レインは黙って窓を見上げている。

 この数日。

 レインの様子は暴走の一言に尽きた。

 タガネが誘拐されたと知るや第一砦の人間を虐殺し、捕食した魔素を養分として、魔剣内部の『人格』の成長が促進された。

 それによって外観も変わり。

 中身の人格さえにも変化をきたした。

 幼い女児だった姿が、今や大人の片鱗を見せるほどの外見年齢に成長している。

 それから。

 暴走は収まらないので、剣鬼隊はこの鎮静(ちんせい)の為にもタガネを追った。レインを御せるのはタガネのみ、放置していればヴリトラの再臨(さいりん)である。

 そして。

 遂に敵影とタガネを捉えた。

 レインの魔力感知と情報を頼りに辿り着いた場所で、いま防壁付近の平屋の一つを占拠し、現在に至る。

 ジルが嘆息した。

「生きた心地しねぇ」

「ですね」

「姫さ――レインがおっかねぇもんな」

 ジルとロビーは。

 そっとレインを流し目で見る。

「タガネは渡さない。レインのもの、レインの家族、絶対、絶対…………」

 独り言が絶えない。

 この状態で彼女に目をつけ、馴れ馴れしく触れた与太者が全身の魔素を一瞬で失って昏倒した。一命は取り留めたが、もはや誰の目にも我が身のことのように思えてしまう。

 今や剣鬼隊一同が恐れ(おのの)く存在である。

 剣鬼隊というより、レイン隊だった。

「それより」

「敵の正体が中央軍とはな」

「どうしたんですか?」

「いや……」

 ジルは口を噤んで黙考する。

 ナハトの飼い主を最初に見たのは東軍の街。

 話では北軍の孤児院の御用達(ごようたし)

 最後に南軍の第一砦。

 目的から身分まで、その本性がまるで判らなかった。そもそも、中央軍自体は南軍のように穏健派、北軍のように戦争推進派などと志を標榜(ひょうぼう)せず、何処よりも謎に満ちていた。

 本格的な侵略もせず。

 まるで戦争を俯瞰するようだった。

「もしかすると」

「…………?」

「いや、何でもねぇや」

 ジルは思考を止めた。

 一つの解答を導き出したが、それは荒唐無稽でありえない。

 何せ。

 この連合国全体で激しい戦が頻発している。

 それが全て。

 中央軍が裏で関与している、なんて……。






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