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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」南端
159/1102



 広間に雪崩れ込んだ敵勢力。

 砦に擁する勢力の半数以上が押し寄せ、迎え撃つ剣鬼隊九名との戦況は激化していた。優勢であるのは無論、数の利を手にしている砦の兵士たちである。

 幾人目か。

 ジルは槌鉾で血の海に沈めて息をつく。

 討てども、討てども。

 数の勢いが減退することはない。

 剣鬼隊の気迫に圧されて数の暴力が容易に通じないと理解し、踏み込む機を見計らって立ち尽くす者が多くなった。

 勢いの止まった敵兵を見回して。

 ジルは肩の矢を抜き取る。

「上階はどうなってんだ」

「頭、今の内に上に行くか?」

「…………ロビー達に加勢しに行くぞ」

「でも、敵兵は……」

 まだ敵の数は多い。

 ロビー達の下に行っても追撃は絶えず、また乱戦へと戻るだけだ。ジルにとって、これ以上の疲弊などの損耗(そんもう)は避けたい。

 (あた)うならここで敵を全滅させたい。

 しかし。

 その前に、さしもの剣鬼隊でも倒れる。

 タガネもまだ来ていない。

 ただここで手を(こまね)いている場合でもなかった。数名を寄越したが、首級の護衛と対峙したロビーたちにも不安がある。 

 是が非でも。

 切り抜けたかった。

「どうすりゃ……」

「――レイン、出る」

 レインが前に出た。

 剣鬼隊の中から現れた幼い少女。

 怯懦もなく、興奮もない。

 静かに進み出た小さな体の放つ異質な存在感に注視が募る。今まで、剣鬼隊でさえ誰も気に留めていなかったほどに気配を消していた。

 レインが広間の中央に立つ。

 たったそれだけ。

 その行動に、誰もが息を呑む。

 レインが誰かを指差す。

「だめなぴかぴか」

「あれもぴかぴか」

「これも」

「それも」

「全部、だめ」

 小さな口から。

 複数の異音で声を輻輳(ふくそう)させる。

 レインの右腕の表皮が白くなる。網目のように鱗が浮かび上がった。虹彩が金色になり、瞳孔が紡錘形(ほうすいけい)に変化する。

 その場の一同は動かずに凝視した。

 レインが腕を前に伸ばす。

 その手首から先が、蛇の頭に変貌した。

「食べる前に……」

「れ、レインちゃん?」

「いただきます」

 食前の礼。

 その言葉を発した後、顎を大きく開いた蛇の頭が巨大化し、広間に集合した敵兵の一部と、その背面にあった壁を丸呑みにした。

 消えた兵士たちと壁。

 瞬間、広間の全員が恐怖する。

 レインが別方向を見た。

「次、そっち」

「マジかよ」

 レインの片腕が変形した。

 別方向の兵士が悲鳴を上げる間もなく、ふたたび消えた。方向転換し、壁に沿って並んでいた別の兵士を丸呑みにしていく。

 胴の部分からまた別の頭が出現し、通路の奥に控えている後続部隊も襲った。

 剣鬼隊は立ち尽くした。

「こ、これ……は?」

「ヴリトラ……」

 戦々恐々とする一同の前で。

 広間から敵兵がすべて姿を消した。

 巨大な蛇のたちがレインの体へと引き戻され、彼女が振り向いた挙止だけで思わず反射的に身構える。

 レインは上階を指した。

「つぎ、行く」

「お、おう!」

 ジルがレインを肩に担ぎ上げた。

 階段を駆け上がる彼に、剣鬼隊がおずおずと追従する。

 ジルの肩の上で。

「……タガネ?」

 レインがある方向に視線を向けた。

 その瞳はまだ、金色だった。






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