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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」南端
156/1102



 地下倉庫を突破して。

 剣鬼隊が閧の声を上げて階段を上がる。

 地上の一室に出るや階段の周囲を固めていた数名を薙ぎ倒し、部屋を出て一階の広間へと躍り出た。先陣を切るジルが全景(ぜんけい)を眺め回す。

 広間から四方に分岐する通路、その先はどれも左右に曲がる道が続き、まるで地下水道のように幻惑されていると錯覚するほど外観が同じだった。

 これでは進路を決められない。

 さすが防衛の最重要拠点。

 第一砦の内部は、情報通り広かった。

 ナハトが紙に書き記した地図を(ひろ)げてみるも、内容とは全く異なる地点に出ている。完全に出鱈目(でたらめ)だった。

 ジルが舌を打つ。

「上階の階段はどこだ」

「結構広いですよ……!?」

 全員で上階への道を探す。

 まず敵の城を陥落させる方法は二つ。

 一つは首魁(しゅかい)の首級。

 砦を統括している人物を斃せば、敵兵の士気は下がり、無条件占拠にしろ、追討にしろ、後の処理が楽になる。

 次に、内包される戦力の殲滅。

 これこそ単純明快であり、誰もが認める敗北の形である。考えうる作戦で、罠や交渉などの労力を要さず、短期決戦で完了する手法だが、危険度は最も高い。

 そこで。

 タガネからの進言で作戦は前者となった。

 敵の頭領を討つ!

 ただ、それだけ。

「うわっ。来ましたよ、ジルさん!」

(かしら)、どうする!?」

 一つだけを残し。

 三本の通路の奥から敵兵が雪崩れ込む。

 剣鬼隊が即座に敵のいない方へと駆け込もうとする最中、ジルだけは立ち止まって思考を巡らせている。

 相手の来た方向に違和感を抱いた。

 露骨にすぎる。

 広間に出て早々、襲撃を察知した敵兵が挟撃(きょうげき)を仕掛けるために退路を潰すように通路の内の殆どを占めている。

 だが、なぜ一つだけ残すのか。

 一網打尽にするなら、全通路から一気に攻め滅ぼすのが早い。

 まるで――誘っているようだった。

「テメェら、そこ行くな!」

「えっ?」

 ジルが大声で制止する。

 全員が通路の前で立ち止まった瞬間、通路の入口の直近にいた一人の立つ床の一部が、ぐっと沈み込んだ。

 唐突な足元の変化に体の均衡が崩れて倒れる。

 そして。

 通路の入口、その天井が観音開きに展開して中から無数の槍が突き出された。床まで届くほどに飛び出たそれらは、ゆっくりと引き戻されて、天井の『扉』が閉まる。

 転倒した傭兵は額に冷や汗を浮かべた。

 やはり、罠だった。

 ジルは舌打ちして、接近して来る敵兵たちに気を配る。

 まだ広間には到達していない。

 それでも焦眉(しょうび)の急であるのは確か。

 ロビーが顔面蒼白になる。

「どどどどどうしますか!?」

「こうなりゃ別の道だ」

「でも、三つとも……」

「なぁに、ここは――」

 ジルが槌鉾で一本の通路を指す。

 剣鬼隊の眼差しがそちら一点に束ねられ、踵を返して示された方に殺到する。

 ロビーは呆気に取られた。

 まさか。

「正面突破ですか!?」

「行くぞぉ!!」

 ジルが先頭を走り。

 攻め来る敵兵の波頭を、槌鉾の一振りで下から掬い上げるように吹き飛ばした。直撃した数人が天井まで叩き上げられ、跳ね返って仲間の頭上に落下する。

 理性を失った(けだもの)のごとく。

 ジルと剣鬼隊が敵の集団を押し返す。

 廊下は血と臓物で汚れ、返り血に染まりながら前進を止めない。ロビーもまた、短剣の投擲で先頭を援護する。

 ただ、味方といえど怖気立つ。

 個々の気概や戦力なら、道半ばで斃れていた。それなのに、剣鬼を軸にする集団と化すだけで、ただの総合的な戦力の概算を遥かに上回る戦果を上げる。

 さぞや敵は恐ろしかろう。

 ロビーは乾いた喉に唾を()む。

「押し切って上階に向かうぞ」

「ええっと……あれです!」

 一本の通路を血染めにして。

 敵の追撃から逃走しつつ、探した。道なりに進んでいくと、先刻よりも広い空間に出る。そこには一対となって半円を描くように湾曲する階段を発見する。

 段差を上がって行った先。

 それを見て、剣鬼隊一同が息を呑む。

「おや、もう来たのかぁ」

「…………」

 階段の最上段。

 吹き晒しとなっている二階の通路に赤い詰襟服の男が立っていた。

 明らかに異彩を放つほどの気品があり、砦の中の重要な役割にある人間だと察せられる風貌をしていた。

 しかし。

 それよりも剣鬼隊が視線を募らせたのは、その男ではなかった。

 男の隣に立つ影。

 顔に痣を作って静かに構える侍女。

「ナハト!!」

「何で……」

 傷だらけのナハト。

 ジルのこめかみに青筋が浮き立った。

 明らかに虐待の痕跡である。

 話には聞き及んでいた少年愛と嗜虐、そしてナハトを隣に侍らせる人物となれば、それは一人しかいない。

 ジルは歯軋りし、全力の槌鉾で床を叩いた。

「テメェか、ナハトの飼い主はァ!!」

「野蛮だねぇ」

「あの野郎、まさかナハトを……」

「許せねぇ!」

 飛び出そうとする全員。

 ジルが片腕を横に突き出して制する。

 その眼差しは男だけに注がれていた。

「悪いが、テメェの首を獲る」

「そうかい?なら逃げることにするよぉ」

「逃がすと思うか?」

「どうだろうかぁ」

 男が指をぱちんと鳴らした。

 その後方から、五人の侍女服が現れる。出会った当初のナハトに似た昏い瞳の少年少女だった。

「反吐が出るぜ」

「頭、また兵が来るぞ!」

 通路から、先刻の兵士たちが迫る。

 ジルはそちらを一瞥して。

「俺たちで相手をする。……ロビーと三人で奴を仕留めろ!」

 ジルたちが構えた。

 ロビーは緊張しながらも階段を上がる。

 男を囲う侍女服が前に出た。

 短剣を片手に、ロビーが深呼吸する。

「僕だって、剣鬼隊なんだ……!」

「そうだぜ、剣鬼の腰巾着」

「あぅっ!」

 辛辣な表現に胸を痛めつつ、ロビーは前を見据える。

「行きますよ!」

 眦を決して。

 ロビー達は侍女服たちに飛びかかった。






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