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それは静かに歩んでいた。
訪れた地上に星空を招き、空に虹を引く。
まるで極北の夜を連れて来る獣。
その真紅の瞳は前を見据えていた。
地響きを伴って踏みしめる一歩は、まだ目的地まで遠い。ただ、その獣は世界に厭われた存在だった。
美景を作るその力も。
その獣性とは反する美貌も。
吐き出す呼吸でさえ。
この世を滅ぼすとされた憐れな堕とし児。
獣は孤独だった。
数多の国をその足跡の中に沈めた破滅の歩は、いま最も大陸の中で人間の騒ぎ立つ土地を目指している。遠くの山陰の奥から、耳をくすぐる剣戟や蛮声の響き。
獣の胸裏が湧き立った。
彼らは人間ではない。
理性を無くして奪い合う獣なのだ。
何より。
その中に、強い力の反応がある。
自分に似た魔力の持ち主が感じられた。
歓喜に銀の体毛が波打つ。
その足先は強く土を踏みしめた。
星空は一歩ずつ。
熾烈な戦場へと引き寄せられていた。
逃げたい(作中のキャラの誰かの代弁)。




