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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」北端
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 東軍の降伏が発表された。

 北軍に吸収される形となり、また裏で行われていた工作により、同盟という形だった西軍も本格的に彼らに組み敷かれることとなった。

 連合国のの領土は三つに分かたれる。

 堅実な守りを誇る穏健派の南軍。

 一気に連合国六割を占めた北軍。

 未だ戦局を座視して動かない中央軍。

 これが現在の三勢力。

 統一までの勢力図は大きく書き替えられたが、戦況は北軍が最も有利とされていた。二つの敵を打破した事態の趨勢からしても戦力、遂行力の高さは証明されている。

 ただ。

 北軍が入手した新戦力が問題だった。


 東軍降伏から十日。

 タガネは北軍中枢の砦の応接室に招かれた。

 整頓された部屋と、鹿の頭を剥製にした壁の装飾、赤い絨毯など高価な物が揃えられた内装に、はやくも辟易している。

 この手の部屋は幾度も見た。

 その経験から(わか)る。

 渡り歩いた国で仕事をすると、大抵は豪奢(ごうしゃ)な趣向ばかりの部屋へと招待され、そこで軍や要人の家の戦術指南官に勧誘されたり、正規な契約を締結させて取り込もうと画策する。

 そのやり方は時に執拗だったりする。

 この十日間。

 主に北軍と中央軍の国境で開かれた戦端に、タガネは北軍として参加していたところ中央軍(あいて)の名のある隊長の一人を討ち取ったのである。

 なお、それに劣らず剣鬼隊の個々の戦果もまた凄まじかった。

 それに目をつけて。

 北軍からいよいよ本格的な誘いがかかった。

 剣鬼隊という物を抱え、かつ嫌いだった勧誘の類の気配にうんざりしている。

 部屋に入ってため息を漏らし。

 渋々と用意された椅子に腰を下ろす。

「もう帰りたい」

「…………」

「すまんな。巻き込んで」

 肩越しに後ろへ謝る。

 女装したナハトが黙ってタガネを睨む。

 誰かに(しつ)けられたのか。

 あれから女装をやめることはなかった。臆面もなく人の門前で女物の下着や侍女服の着脱、タガネたちに使嗾(しそう)されて偵察や斥候すら遂行する。

 拘りなのか、習慣化による羞恥の薄れか。

 どちらともいえない。

 ただ中性的な顔立ちのせいで、外見上の性別は着衣によって変幻自在だった。

 そして当然、懲りずにタガネの命を狙う。

 食事に一服盛り、仮眠の隙にも凶刃で襲い来る。

 危険ではあった。

 ただ、諦めて依頼人を白状するまでは手放せない。ナハトもまた逃げる積りは毛頭ないらしく、この関係が続いている。

 鋭い眼差しを受けて。

 タガネは前に向き直った。

「いつ来るんだい。相手の――」

「北軍総指揮官ベルデヒ辺境伯はあと数分です」

「大体、頭目のジルが――」

「指揮官は剣鬼本人を所望してます」

「……俺は――」

「対談が終わるまでは帰れません」

「ちっ」

 言うことを悉く読んで。

 ナハトは正確な返答で退路を塞ぐ。

 思わず舌打ちするタガネは、大仰に倦怠を示すように背もたれに体を預ける。

「隣に来てくれ」

「なぜですか」

「おまえさんに背中見せたくないんだが」

「ここで()しません」

 含みのある言い方で否定する。

 タガネは苦笑して、それ以上は黙った。

 北軍の勧誘を受けるつもりは無い。ある程度の仕事をこなしたら、東軍を報酬の高低で裏切った悪印象が払拭される。

 そうなれば。

 もう北軍(ここ)に拘泥する理由はなくなる。

 ふたたび勧誘される前に、中央軍か南軍に活動拠点を移転し、戦争自体が終局に向かい始めた頃に連合国を脱する。

 仕事場を別にするだけだ。

 ケティルノース討伐は荷が重すぎる。

「ふむ」

「どうかしましたか」

「いや、別に」

 黙々と戦後の逃げの一計を案じていた。

 そこへ。

「剣鬼殿、よくぞ来てくれた!」

 応接室の扉が強く開け放たれる。

 あまりの物音の大きさに。

 タガネはわずかに剣を鞘から抜き、ナハトは侍女服の裳裾を上げて、下に仕込んだ短剣を手に取る。

 警戒の構えを目の当たりにし。

 入室した面々が固まる。

 総指揮官と思われる豊かな髭の男は、その場に立ち尽くした。

 タガネは入室した面子を眺めて。

 ある一人に目を留める。

「……何でおまえさんがいる?」

「よっ、久しいな剣鬼!」

 そこにいたのは。

 目に焼き付くような赤い髪の青年。

 あの拳聖バーズだった。






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