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連合国北部には草原が広がる。
草の豊かな土地は、付近に火山があるのもあって気候は穏やかであり、野花もそこかしこに咲いていた。白く染まった遠い峰の雪の粧いが映える。
この土地を拠点にする北軍。
その行動方針とは、全く異なる安穏とした土地だった。
潺湲と流れる小川のそば。
草原のまっただ中に白い家が建つ。
漆喰塗りの壁面は綺麗に均されたばかりだが、色褪せた柱の木目から白く塗り固めた奥の年季までも窺える。
屋根は粗雑に重ねて打たれた修繕の跡が剥き出しだった。
家の扉が開かれると屋根板が音を立てて揺れる。
戸口から子供が嬉々として飛び出す。
それに遅れて。
修道服の少女が手を引かれて出た。
「シスター、今日晴れてるよ!」
「ここ一月は昨日だけだったでしょ?」
もう。
シスターは空を見た。
高山の上の窪地にあるので、雲がかかることは滅多に無い。近くに湧水もあるので、生活の不如意はほとんどなかった。
穏やかに差す陽射しの下。
シスターは口元をほころばせる。
「あ、誰か来てるの」
「えっ?」
子供が草原を指差した。
シスターもそちらを見て、笑顔が消える。
草原の中を歩む男の影があった。
清潔な服の上に、襟口や袖に柔らかい毛をあしらった黒いコートを着て、子どもたちの方を目指している。
シスターは顔面蒼白に。
後ろ手で囲いを作って子供を下がらせた。
「中に戻っていなさい!」
「えー!でもぉ」
「はやく!」
シスターが思わず怒鳴る。
その必死さを訴える顔に、子供たちはおずおずと建物へと退散していった。
やがて。
遠くの影だった男がシスターの前に立つ。
その手が頬に当てられ、ゆっくりと撫でるように顎の下へと滑り、喉を伝って修道服の上から鎖骨を撫でる。
シスターは不快感に思わず身をよじった。
男が笑みを浮かべる。
「相変わらず冷たいなぁ」
「………」
「そろそろ『出資』の時期だろう?」
「ッ………!」
「どう。良い子はいるかな?」
ぴしゃり。
シスターの平手が男の頬を張った。
乾いた音が青空の下に澄んでよく響く。
仄かに腫れた頬をさすり、男は笑みを絶やさずに眉をつり下げた。
シスターは、さっと身を引く。
「それで、何人?」
「………今、見てきます」
シスターは建物へと走る。
男はその背中を見送ってから空を見た。
「うーん、ナハトも遅いなぁ」
陽気な声で。
男は酷薄な唇を笑みで歪めた。




