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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」北端
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 連合国北部には草原が広がる。

 草の豊かな土地は、付近に火山があるのもあって気候は穏やかであり、野花もそこかしこに咲いていた。白く染まった遠い峰の雪の(よそお)いが映える。

 この土地を拠点にする北軍。

 その行動方針とは、全く異なる安穏とした土地だった。


 潺湲と流れる小川のそば。

 草原のまっただ中に白い家が建つ。

 漆喰塗(しっくいぬ)りの壁面は綺麗に均されたばかりだが、色褪せた柱の木目から白く塗り固めた奥の年季までも窺える。

 屋根は粗雑に重ねて打たれた修繕の跡が剥き出しだった。

 家の扉が開かれると屋根板が音を立てて揺れる。

 戸口から子供が嬉々として飛び出す。

 それに遅れて。

 修道服の少女が手を引かれて出た。

「シスター、今日晴れてるよ!」

「ここ一月は昨日だけだったでしょ?」

 もう。

 シスターは空を見た。

 高山の上の窪地(くぼち)にあるので、雲がかかることは滅多に無い。近くに湧水もあるので、生活の不如意はほとんどなかった。

 穏やかに差す陽射しの下。

 シスターは口元をほころばせる。

「あ、誰か来てるの」

「えっ?」

 子供が草原を指差した。

 シスターもそちらを見て、笑顔が消える。

 草原の中を歩む男の影があった。

 清潔な服の上に、襟口や袖に柔らかい毛をあしらった黒いコートを着て、子どもたちの方を目指している。

 シスターは顔面蒼白に。

 後ろ手で囲いを作って子供を下がらせた。

「中に戻っていなさい!」

「えー!でもぉ」

「はやく!」

 シスターが思わず怒鳴る。

 その必死さを訴える顔に、子供たちはおずおずと建物へと退散していった。

 やがて。

 遠くの影だった男がシスターの前に立つ。

 その手が頬に当てられ、ゆっくりと撫でるように顎の下へと滑り、喉を伝って修道服の上から鎖骨を撫でる。

 シスターは不快感に思わず身をよじった。

 男が笑みを浮かべる。

「相変わらず冷たいなぁ」

「………」

「そろそろ『出資』の時期だろう?」

「ッ………!」

「どう。良い子はいるかな?」

 ぴしゃり。

 シスターの平手が男の頬を張った。

 乾いた音が青空の下に澄んでよく響く。

 仄かに腫れた頬をさすり、男は笑みを絶やさずに眉をつり下げた。

 シスターは、さっと身を引く。

「それで、何人?」

「………今、見てきます」

 シスターは建物へと走る。

 男はその背中を見送ってから空を見た。

「うーん、ナハトも遅いなぁ」

 陽気な声で。

 男は酷薄な唇を笑みで歪めた。




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