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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」北端
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 鉱山の中腹。

 砦には密かな波紋が広がっていた。

 兵士は通廊を忙しなく駆け巡る。

 誰の顔にも冷静さは失われていた。

 動揺が伝播する最中。

 砦の統轄を委任された軍服の男は、青褪めた顔色で砦のバルコニーから森を眺めていた。

 作戦は完璧だった。

 その確信が覆っている。

「どうしてだ……」

 悲嘆もあらわに呟く。

 東軍が利用するであろう侵入経路を断ち、立ち往生している間に掃討する計画。その後、本格的な東軍基地の占領に打って出る。

 その段取が狂わされた。

 予定地に現れたのは傭兵部隊。

 狙撃と退路となる森からの奇襲で、士気もない東軍を全滅させる策は、見事に打破されてしまった。

 状況確認のために派遣した者から早馬の報告だった。

 失敗の第一要因。

 それは、傭兵部隊の一人である。

 並外れた剣技で悉く(ことごとく)の難を排してみせた。

 大陸最強と名高い――剣鬼その人である。

 ケティルノース討伐ではなく。

 連合国の戦地に現れた。

「なぜだ、ヤツは……」

「ここも無理そうだねぇ」

 背後でのんきな声がした。

 戦場に似つかわしくない清潔な詰襟の服。

 バルコニーで優雅(ゆうが)に酒を嗜んでいた。

「あ、相手は剣鬼ですよ!?」

「知っているさぁ」

「わ、我々はどうすれば……」

 詰襟の男は立ち上がる。

 バルコニーから静かに立ち去ろうとした。

 その足に軍服がすがりつく。

「ま、待ってくれ!」

「んん?」

「頼む、我々は何としても……」

「ナハト」

 詰襟の男が指を鳴らす。

 バルコニーの闇から、すっと影が浮かんだ。

 忽然と侍女が姿を現し、片手にした短剣で軍服の首をすばやく刈った。断面から迸る流血を避け、男のそばに引き下がる。

 死体を一瞥だけして。

 男は森の方角に唇を尖らせた。

「ここの戦力では難しそうだぁ」

「………」

「君は残れ」

「はい」

「目標物だけでも確保しなさい」

「承知しました」

 侍女にそれだけ告げて。

 男は愉快な笑声を響かせながら立ち去った。





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