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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」東端
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 夕刻。

 街の中央にある広間で傭兵が集った。

 タガネとジルニアスも、その一段の中に加わっている。簡単な食事と休息を済ませ、戦闘の準備を整えた。

 広間の中心に据えられた台座。

 その上に兵士が立っている。

 粗末な装備に身を包み、士気に障るような疲弊状態だった。まだ傭兵たちの方が装備も万全で、気鋭(きえい)の面構えである。

 見上げる傭兵たち。

 その目には払拭(ふっしょく)しがたい蔑視が宿った。

 これが本当に、自分たちの報酬を約束できるのか。

 そんな愁嘆も知らずか。

「諸君らに説明する」

 兵士は昂然と胸を張って立つ。

 風が吹くと、少しだけよろめいた。

 微風でも折れる(ひこばえ)のように儚げである。

 傭兵たちから失笑が漏れた。

 タガネは含み笑いをするジルニアスを視線で咎めた。

 その笑声に兵士の顔が赤らむ。

 気を取り直すように咳払いをした。

「我々は北軍との戦線に挑む」

「くっ……笑っていいか?」

「やめろ」

 ジルニアスが唇を引き締める。

 ただ、口端はいつまでもひくついていた。

 笑うことこそ無いが。

 タガネは兵士の言葉に呆れ果てていた。

 この惨状で、北軍と張り合えるのか。いかに傭兵で戦力を補充したとはいえ、その戦法は相手も使っている。

 つまり。

 戦力は勝敗を決する如何(いかん)に繋がらない。

 何か切り札があるのか。

「ここから北西に北軍の砦がある。そこを陥落させる」

「………なるほど」

「傭兵たちには遊撃隊として、こちらが指示した通路を用いて、襲撃してほしい」

 タガネは顔をしかめる。

 遊撃隊――つまり尖兵(せんぺい)だ。

 奇襲を仕掛けるのに、たしかに傭兵をけしかけるのは効果的だが、誰よりも危険な任務であるし、損得勘定(そんとくかんじょう)でしか動かない彼らが従うか否か。

 猜疑心ばかり掻き立てる現状で。

 これに賛同する人間がいるかどうか。

「報酬は約束通りの(あたい)を支払う」

「マジかよ」

「ほー」

 念を押すように。

 兵士の口上は報酬の確約を誓う。

 広間が(ざわ)めき、ひそひそと囁き合った。詮議されるのは、やはり作戦参加の是非である。

 ジルニアスは腕を組んで唸った。

 タガネもひとり静思する。

「作戦開始は夜中だ」

「やっぱ夜戦だよなぁ」

「砦付近の森に連絡係が立っているので、それから指示を受けるように。

 ――以上だ」

 言葉を切って。

 兵士は台座から速やかに立ち去った。

 その背中を見送って。

 ジルニアスは拳を打ち鳴らす。

「よっしゃ、行くか!」

「行くのか」

「報酬が約束されるって言ってるし」

「…………」

「そう言える根拠が知りてぇな」

 やる気に(みなぎ)るジルニアス。

 それを横目に、タガネは広間の片隅を見た。

 夥しい奴隷を乗せた荷馬車がある。

 その隣では。

 奴隷商と思しき人間と、清潔感のある服に身を包む男が立っていた。何やら歓談しており、二人とも笑顔である。

 やがて、男が顎で指す仕草で隣にいる侍女らしき女性に命令する。顎使(いし)された彼女もまた、何の抵抗もなく従った。

 奴隷商に何かを渡している。

 それを受け取って、深々と一礼する奴隷商へと鷹揚(おうよう)に手を振って、男もまた馬車へ飛び乗った。

 荷馬車たちが動き出す。

「どした?」

「……ここは奴隷が多いな」

 タガネは荷馬車を見つめる。

 ジルニアスもそれを見遣って肩を竦めた。

「人を売って生計立ててんだろ」

「………」

「あの男が奴隷商に売ってたんじゃないか?」

 タガネは目を細めた。

 荷馬車に乗って、去っていく男の姿。

 奴隷の子供に声をかけて微笑む。

「いや、あれは買い手だ」

「そうなのか?」

「しかも、あれ全部」

「あんな数買ってどうすんだよ……」

「俺らには関係ないかもな」

 タガネもまた歩き出した。

 すでに決意した傭兵たちは北西を目指している。広間から去る数だけでも、ほとんど最初と変わらない。

 ジルニアスも後に続いた。

「さ、行こうぜ剣鬼!」

「やれやれ」

 日が落ちる。

 タガネの戦いが始まろうとしていた。





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