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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」東端
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 一刻の後。

 馬車は連邦国の東部の街に着いた。

 赤土(あかつち)で作られた家々が建つ。道を歩むのは、すす汚れた者ばかり。

 鉄と血臭がする。

 息をするのも苦しくなるような景観だった。

 二人は運賃を払って降りる。

「碌でもない街だな」

 タガネはまわりを見た。

 疲弊した兵士が道端(みちばた)で眠っている。

 欠けた甲冑を着込んだ兵士がいた。

 装備の破損は重大だが、欠損した部分から覗く部分には傷もない。(やつ)れた顔や細い腕などは、剣を持ち上げるのも苦労している様子だった。

 支給品(しきゅうひん)を着た一般人。

 そうだとすぐに判った。

「これは、(だま)されたな」

「たしかに」

「報酬出ねぇかなぁ」

 二人で立ち尽くしていると。

 すぐそばで(いさか)う声が聞こえた。

 そこは糧食を貯蔵する倉庫。

 食料を配布しているのか、列ができていた。その先頭で、二人の男が言い争っている。語らずも、量に対する不満を訴えているのだ。

 それを遠目に。

 タガネの表情が曇る。

「荒れてるな」

「テメェもそんな目してるぞ」

「変なこと言わんでくれな」

 その軽口をいなし。

 タガネは宿屋を探して歩く。

「宿か」

「ああ」

「意味ねぇだろ」

 ジルニアスが顎で示す。

 出兵の準備が着々と整えられていた。

「早ければ夜戦の参加になりそうだぜ」

「この軍、勝機が薄いぞ」

「怖いねぇ」

 悲嘆をこめて。

 タガネはこの街の情勢を案じる。

 連邦国は五つに分かたれた。

 北軍、西軍、東軍、南軍、そして中央軍。

 タガネが来た街は、東軍の本拠地となる場所である。ここは土に恵まれておらず、食糧問題に喘いでいた。

 他国の領土を奪って。

 その辛苦(しんく)を解消するために戦っている。

 それにしては、傭兵に宛てがわれる報酬などは豪気である。

 タガネも、その待遇を聞いて東軍についた。

 しかし。

「信憑性が無ぇぞ、これ」

「ようやっと着いたってのにな」

「これなら北軍がマシだぜ」

 タガネも心の中で同意した。

 連邦軍で双璧をなすのは北軍と中央軍。

 特に前者は戦争推進派であり、積極的な制圧を心がけている。その歯牙にかけられた西軍は、同盟という名の降伏(こうふく)を示している。

 それも。

 穏健派の南軍とこの有り様の東軍。

 中央軍との一騎討ちとなる展望(てんぼう)が誰の目にも浮かぶ。

 タガネは愁眉を険しくする。

「ジルニアス」

「ジルでいいぜ」

「…………」

 やけに馴れ馴れしい。

 距離感に戸惑いながらもタガネは言葉を紡ぐ。

「東軍には勝機があるのか?」

「いや、わかんねぇな」

「その割に報酬は良い」

「詮索は止めようや」

 タガネの言葉を切る。

 ジルニアスが唇の前に人差し指を立てる。

 その目は周囲を睨んでいた。

「きっと誰もが感付いている」

「…………」

「東方の言葉にあるだろ?あー……」

「『知らぬが仏』、か?」

「そう。それだ、それそれ」

 タガネも口を(つぐ)む。

 傭兵にも報酬を出せる算段がある。こんな窮状で、そんな約束ができる魂胆とは。

 一縷の望みを懸けての勝利か。

 それとも、綿密な計画による勝利か。

「それで」

「やっぱ東軍につくか?」

「いまさら転身も利かんだろ」

「だな」

 二人で宿を目指し。

 その道すがらで二人の横を馬車が通過する。

 荷台には、多くの奴隷が乗っていた。それと、大量の樽である。

 タガネの鼻を異臭がかすめる。

 立ち止まって振り返った。

「小便臭い……?」

「どうした、タガネ」

「いや、別に」

 タガネは再び進みだす。

「それで、おまえさん」

「おん?」

「俺について来る気か」

「へへっ、近くで剣鬼のお手並みを拝見したいんでね」

「そうかい」

 二人は宿へ向かう。

 その間もジルニアスの軽口はひたすら続いた。






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