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七話『1』の内容を変更しました。
ご容赦ください。
荷台の上で次々と男が起きる。
その気配を覚って。
タガネは正面に向き直り、荷台の側壁に凭れた全員の顔を流し目で確認する。顔立ちや肌の色などから正体を探った。
連邦国の地域を出身とする特徴が無い。
外部から戦地へ赴いているのだ。
つまり、稼ぎに来た傭兵。
タガネと同じである。
向かう方角からして、雇用主もまた同一であると思われる。
そして。
観察を続けている内に、隣の傭兵が自分を見たと察知した。
視線だけをそちらに寄越し。
「何だい」
「テメェ、噂の剣鬼か」
「まあね」
剣鬼、と知られている。
しかし。
そこに『噂』とついたのは最近のこと。これまでは畏怖、畏敬、忌避が多かったが、今では皮肉の含意が強かった。
その理由は。
最悪の魔獣ケティルノース討伐のために世界全体で連合軍が組織される最中、戦力を出す国の数々が剣鬼タガネを求めていた。
なぜなら。
「英雄、って言われてる剣鬼様」
「………」
「なはははは!」
男が大笑する。
たった一人の傭兵にすぎないタガネ。
それが、どうして討伐戦の要にされているか。
それは。
先のヴリトラでの大立ち回り。
山岳部でのデナテノルズ討伐協力。
前者は王国に潜伏していた他国の間者から大陸中に知れ渡り、後者は救われた帝国の兵士と盗賊団が積極的に『英雄』として喧伝した。
これらの武功からかんがみて。
その名前を各国が強く推挙している。
そして。
タガネはその期待から逃げていた。
「良いのか、こんなところにいて」
「嫌だからいるんだよ」
「鬼っつー割に臆病なんだな」
「ああ」
開き直って首肯する。
本来なら連邦国の戦地よりも重要視される。
その討伐戦線に参加しない。
もし成功すれば。
魔神討伐に次う歴史的偉業である。
ただし。
「ケティルノースはなぁ」
「…………」
「国一つを一瞬とは……」
北海の『凪の胎窟』から生まれ。
知られたのはつい最近だが、数々の国を荒れ地に変え、王国、西方島嶼連合国を滅亡させている。
それからも。
複数の国が魔獣の災害に見舞われていた。
対抗するための鋭鋒。
その重責も傭兵には堪えがたい。
「それで」
「うん?」
「この連邦国に来たと」
隣の男がにやりと笑う。
タガネは惑わずに首を縦に振る。
「あれか、隠居する前の金稼ぎか」
「……よく分かったな」
「もし我が身のことなら、俺もそうするし」
「そういうもんか」
「こいつらは、ケティルノース討伐が怖くて流れてきた連中だ」
車内を斜視して。
男は首をすくめて乾いた笑いを浮かべる。
タガネも思わず苦笑した。
大陸東部は、積極的に兵力を募っている。ただ、経済の困窮した傭兵でも参加をためらった。
相手が相手である。
そのため、自身の臆面から目を背け、また罪悪感から逃れるように。
人は連邦国の戦地へ流れる。
それが世の傭兵の思潮となっていた。
「嫌な時代になったぜ」
「そうだな」
「オレぁな、ジルニアスってんだ」
「知ってると思うが、タガネだ」
名前を交換する。
隣の傭兵ジルニアスが口角を上げた。
頭髪はなく、褐色肌の大柄な男である。
「ほれ、もうすぐ着くぞ」
「――だそうだ」
「さて、稼ぎ時だな」
荷台の上の空気が一層冷たくなり、注視が道の彼方へと募る。
二人も目に緊張の色を宿らせた。




