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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」東端
122/1102

七話『1』の内容を変更しました。

ご容赦ください。



 荷台の上で次々と男が起きる。

 その気配を(さと)って。

 タガネは正面に向き直り、荷台の側壁(そくへき)に凭れた全員の顔を流し目で確認する。顔立ちや肌の色などから正体を探った。

 連邦国の地域を出身とする特徴が無い。

 外部から戦地へ赴いているのだ。

 つまり、稼ぎに来た傭兵(ようへい)

 タガネと同じである。

 向かう方角からして、雇用主もまた同一であると思われる。

 そして。

 観察を続けている内に、隣の傭兵が自分を見たと察知した。

 視線だけをそちらに寄越し。

「何だい」

「テメェ、噂の剣鬼か」

「まあね」

 剣鬼、と知られている。

 しかし。

 そこに『噂』とついたのは最近のこと。これまでは畏怖、畏敬、忌避が多かったが、今では皮肉の含意(がんい)が強かった。

 その理由は。

 最悪の魔獣ケティルノース討伐のために世界全体で連合軍が組織(そしき)される最中、戦力を出す国の数々が剣鬼タガネを求めていた。

 なぜなら。

「英雄、って言われてる剣鬼様」

「………」

「なはははは!」

 男が大笑する。

 たった一人の傭兵にすぎないタガネ。

 それが、どうして討伐戦の要にされているか。

 それは。

 先のヴリトラでの大立ち回り。

 山岳部でのデナテノルズ討伐協力。

 前者は王国に潜伏(せんぷく)していた他国の間者から大陸中に知れ渡り、後者は救われた帝国の兵士と盗賊団が積極的に『英雄』として喧伝(けんでん)した。

 これらの武功からかんがみて。

 その名前を各国が強く推挙(すいきょ)している。

 そして。

 タガネはその期待から逃げていた。

「良いのか、こんなところにいて」

「嫌だからいるんだよ」

「鬼っつー割に臆病なんだな」

「ああ」

 開き直って首肯する。

 本来なら連邦国の戦地よりも重要視される。

 その討伐戦線に参加しない。

 もし成功すれば。

 魔神討伐に(すが)う歴史的偉業である。

 ただし。

「ケティルノースはなぁ」

「…………」

「国一つを一瞬とは……」

 北海の『(なぎ)の胎窟』から生まれ。

 知られたのはつい最近だが、数々の国を荒れ地に変え、王国、西方島嶼連合国を滅亡させている。

 それからも。

 複数の国が魔獣の災害に見舞われていた。

 対抗するための鋭鋒(えいほう)

 その重責も傭兵には堪えがたい。

「それで」

「うん?」

「この連邦国に来たと」

 隣の男がにやりと笑う。

 タガネは惑わずに首を縦に振る。

「あれか、隠居する前の金稼ぎか」

「……よく分かったな」

「もし我が身のことなら、俺もそうするし」

「そういうもんか」

「こいつらは、ケティルノース討伐が怖くて流れてきた連中だ」

 車内を斜視して。

 男は首をすくめて乾いた笑いを浮かべる。

 タガネも思わず苦笑した。

 大陸東部は、積極的に兵力を(つの)っている。ただ、経済の困窮した傭兵でも参加をためらった。

 相手が相手である。

 そのため、自身の臆面(おくめん)から目を背け、また罪悪感から逃れるように。

 人は連邦国の戦地へ流れる。

 それが世の傭兵の思潮(しちょう)となっていた。

「嫌な時代になったぜ」

「そうだな」

「オレぁな、ジルニアスってんだ」

「知ってると思うが、タガネだ」

 名前を交換する。

 隣の傭兵ジルニアスが口角を上げた。

 頭髪はなく、褐色肌の大柄な男である。

「ほれ、もうすぐ着くぞ」

「――だそうだ」

「さて、稼ぎ時だな」

 荷台の上の空気が一層冷たくなり、注視が道の彼方へと募る。

 二人も目に緊張の色を宿らせた。





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