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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」東端
121/1102

忘れ(がたき)と読みます。



 王国のはるか東。

 大陸でも類を見ないほど小国が密集する地域では、誰もが統一を目指し、覇権を巡って争っていた。

 古来より。

 そこは『連邦国』として一括(ひとくくり)にされている。

 (もっと)も、それは周囲からの呼称でしかなく。

 正規の国として成立してはいない。

 その戦争も、内乱と認知されていた。


 空気は冷たい。

 雲一つない蒼穹(そうきゅう)の下。

 乾いた風に風化した土地である。雲海を(のぞ)む高山地帯は、舗装されたといえども凹凸が多く馬車で通れば車体が跳ねること頻りだった。

 荒廃した土地を駆ける馬車の荷台で、複数人の男が眠っていた。

 屈強な肉体の上から武装で固めた風体、それが荷台に顔を揃えているとなると、馬車というよりも戦車もかくやといった迫力を持つ。

 それを構成する一人。

 面子(めんつ)では特に年若い少年が顔を上げる。

 車台の振動で目を覚まし、景色を顧眄する。

 土汚れた銀髪を風に揺らし、灰色の瞳でくすんだ青空を映す。抱いていた剣をベルトに付けて、背筋を伸ばす。

 それから馬車を走らせる男に振り向いた。

「どの辺りだ」

「もうすぐ東軍の戦線だよ」

「そうかい」

 現在地を聞いて。

 その直後に砲火(ほうか)の怒号が空に響く。

 馬車の行く手に広がる景色の中で黒煙が上がった。

 強力な魔法が使用されている。

 よく耳を澄ませば、天下には剣戟も聞こえた。

 銀髪の少年は目を細めて。

「随分と荒れてるな」

「連邦って呼ばれるのも今年が最後かも」

「ふん」

 馬車を走らせる男が振り向く。

「アンタ、若いな。それに銀髪に、剣……」

「察してくれ」

「ああ、なるほどな」

 少年の言わんとすることを察する。

 男は改めて前に向き直って鞭を打つ。

 馬車が少しだけ加速した。

剣鬼(けんき)も大変だな」

「どうもな」

 男の憐れみに。

 銀髪の少年タガネが鼻で笑ってこたえる。

 灰色の眼差しで進行方向を見据える。

 久しい戦場の臭いが迫っていた。




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