表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」下門
117/1102



 北の洞穴の守備は固かった。

 洞穴の脇にかまえる二名だけではない。

 円状に展開した三重の警戒網があり、鬼仔の生得的(せいとくてき)な鋭い知覚能力を使った、文字通り()()()()()()態勢だった。

 それだけに。

 守るべき極秘部署の要所であること。

 その証明行為に等しかった。

 そして、最重要地点の洞穴を守護する二名の実力が群を抜いているのもまた説明不要な事実。

 六尺以上の体躯。

 鼻梁(びりょう)もなく平坦な顔の前面は、しかし目だけが爛々と光って正面に圧倒的な威圧感を放つ。

 鬼仔の中でも突出して魔性(ましょう)を色濃く遺伝させたゆえの姿態(したい)だった。

 その容貌は、まさに鬼。

 誰も踏み入らない深山。

 その奥地の中の秘境(ひきょう)を鬼が守っている。

 そして。

 警備の任に当たる洞穴の前の二名。

 集落の統括責任者――老人の命令を忠実に守っているが。

 今宵(こよい)は特に厳しい。

 なにせ、今朝に続いて連続した来訪者によって集落の存在が外部へ他言される危険性があったからだ。

 ここの鬼仔はみなが承知している。

 いずれは軍籍(ぐんせき)に身を置き、国の利益に死力を尽くしていくために訓練を施されている。

 兵士とは名ばかりの奴隷然(どれいぜん)とした扱い。

 しかし、幼少から老人に施された洗脳によって、誰もがその在り方に疑念すら抱かない。

 いわば。

 完全に正統性(せいとうせい)の取れた兵士だった。

 だからこそ。

 国家機密である洞穴の守備に手を抜かない。

 小さな敵の足音にも睨みを利かせる。

 鬼仔が感覚を研ぎ澄ます領域。

 獣一匹すら逃れられない。

 そんな状況で。

「ここだよな、洞穴って」

 悠揚と侵入してくる気配が一つ。

 洞穴のそばの森。

 銀髪の少年が樹影から進み出る。

 片手には剣、そしてもう一方には――。

「動くと」

「え、えーと……?」

「この娘の首を刎ねる」

 警備の二人が固まる。

 銀髪の少年は、今朝の来訪者。

 みずから姿を表したのは下策、直ちに排除すれば村の憂慮も消える。

 ところが。

 その脇にリフが捕われていた。

 腰の短剣に伸ばした手が止まる。

 それを見て、タガネが微笑む。

「おまえさんらの部下は各方面に散ってるぞ」

「!?」

「こっちの仲間の撹乱に引っかかってる」

 少年が剣を揺らす。

「さ、通しな」

「…………」

「責任者と話したいだけだ」

 二人は顔を見合わせ。

 黙って洞穴の前から退いた。

 少年とリフは、そのまま中へと進む。


 門前の鬼が見えなくなって。

「上手くいくもんだな」

 タガネが意地悪な笑みを浮かべる。

 拘束されているリフは顔色を悪くしていた。

 知り合いが(おど)されている。

 しかも、自分はそれに加担する形だった。

 なんともやるせない。

「はは、ボクって……」

「気にしなさんな。すぐ終わる」

 崖を筒状の道にうがった穴。

 二人が両手(もろて)を横に広げられる余裕がある広さと、奥まで続く長い道を(よう)する。

 タガネは闇の中に目を凝らした。

 行く手に薄い光がある。

 最奥(さいおう)に灯された照明か。

 リフを連れて、その先へと惑わずに進む。

 何歩目なのか。

 距離感が失われるような錯覚に堪えて、二人は洞穴の奥にたどり着いた。

 そこで。

 むせ返るような悪臭が立ち込める空間に入る。

「うっ、何これ……」

「こりゃ酷ぇな」

 タガネとリフの眼前。

 そこに、魔獣と人の交わる光景があった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ