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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」下門
116/1102



 仄日(そくじつ)の茜で空が染まる。

 それを覆うように雲が出始めた。また雪の気配がかすかに兆す。

 樹間にわだかまる薄闇。

 それが陰気を増し、数歩先の行く手に暗幕を下ろした。

 雪を踏みしめてタガネは進む。

 その足先は、温泉郷のある東ではない。

 集落のある西側、それもやや北へ。

「体が(だる)い……」

『だい、じょーぶ?』

「問題ない」

 腰の魔剣から体調を案じられる。

 まだ傷は癒えていない。

 レインから供給された魔素で回復力などは促進されているが、そのせいで人の形を保てなくなった。――また『餌』が必要になる。

 幸か不幸か。

 それに困窮しない現状に自嘲する。

「戦いばかりとは、世も末だな」

「タガネ、休まなくていいの?」

「こりゃ、後の温泉が味わい深くなるね」

 皮肉を言って。

 後ろから()いて来るリフを顧みる。

 二人で北の山の尾根を沿いながら、集落北の洞穴にある産屋を目指していた。怪我の身を押して進む理由(わけ)はそこにある。

 なお。

 この二人で進む意味にも重要性を帯びていた。

 怪我人のタガネとしては、クレスやリクルなどよりも、リフが大きな防衛となりうる。

 その底意の二人行動だった。

「日が暮れるまでには着きたいね」

「今の調子だといけると思う」

「俺は重荷になってるかい?」

「そんなことないよっ」

 リフが慌てて否定した。

 それから先を見据えて一方向を指で差す。

 遠目にうかがえる集落。

 それに面する山の一つは、一部が縦から垂直に割られたように切り立った崖があり、その影に隠れた切り口となる山の岩肌に洞穴がある。

 岩を穿(うが)った穴の両脇に火が灯っていた。

 タガネは目をすがめて。

「あれだな」

「正面から突破するの?」

 リフは小さく震えていた。

 今まで接していた集落の人々が鬼仔という正体を隠していた剣呑な連中であり、いま自分と同行しているタガネがその敵で容赦なく障害を斬り捨てる人格の持ち主であること。

 身内と知り合いの流血。

 それを静観する以外ない現況(げんきょう)が憎かった。

 その心中を察して。

 タガネが後ろに向かって緩く手を振る

「なに、心配しなさんな」

「え?」

「リフの前で刃傷沙汰は極力控える」

「……本当に?」

「そういう策さ」

 タガネは魔剣を片手ににぎる。

 そのまま後ろを手招きして、リフを自分の隣に呼び寄せた。

 従ったリフの細い首に腕を回し。

 胸の中に抱え込む。

「ふぇっ!?」

 突然の密着にリフは動転した。

 忙しなく腕を振り、抵抗とも歓喜ともつかない反応を起こす。

 対するタガネは、いたって冷静だった。

 瞳は冷然として洞穴を見つつ。

 片手の魔剣の刃をリフの喉へとかざす。

「準備完了だな」

「へ?」

「それじゃ、作戦開始だ」

 にやりと。

 リフの肩越しに鬼が笑う。






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