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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」下門
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 鬼仔養成の管理担当。

 国家機密に携わる重責に堪える実力がある。

 あの老翁(ろうや)は、手強い。

 ただ、まだ疑問は尽きない。

「どうして」

 タガネの瞳が冷たく光る。

「リフが関わると肉は錆びる?」

 その命題に。

 誰もが沈黙して思考を要した。

 リフも特徴などから鬼仔であるのは自明。何より鬼仔養成場の住人となれば、そこに疑う余地はそもそも皆無だ。

 ならば。

 どうしてリフだけが物に錆を作る特異な力を備えているのか。

 疑問点を解消する情報が無い。

 そもそも。

「見なかったことにして去るのが賢明だが」

 タガネは村の方角を見遣る。

 あれは秘匿された機関で行われている。

 立入禁止の厳戒網(げんかいもう)を布いて、余計な詮索をされることすらも回避しようとしている。

 だからタガネたちも入れた。

 いや、それが効率的な食糧の確保になるから。

 そして、情報漏洩の防止に繋がる。

 秘密の処理に徹底した体制。

 仮に。

 これを逃れた者がいたなら、是が非でも追討にでるはずである。

 見てはいけないもの。

 されど見たからには無事で済まない。

「はー、温泉……」

 タガネは肩を落とした。

 旅の労苦を癒やす旅程の途上で、予想だにしない障害を前にして挫けそうになる。

 知れた面子に再会したとはいえ。

 それが厄介事の種には変わりないのだ。

「さて、リフ」

「あ、うん」

 リフが顔を赤くして応える。

 まだリクルによる色仕掛けの余韻があった。

「おまえさん、知ってたのかい?」

「何をですか」

「集落が鬼仔の巣窟(そうくつ)だと」

 リフは首を横に振る。

 角に触れて、悲しげに目を伏せた。

「生まれたときから居るけど」

「知らねぇと」

「うん」

「錆の原因は?」

「ごめん」

 これもまた本人も知らないらしい。

 タガネは腕を組んで、脳内で情報を整理する。

 人の肉を食う鬼仔。

 それが巣食う人外魔境で安穏と暮らしていた少女には、何一つ事実が伏せられていた。住人は承知していて当然の内情を、リフは露とも知らなかった。

 なぜ、彼女だけが。

「そういや、リフ」

「なに?」

「俺が訪ねたとき、買いに行くって」

「ああ、うん」

「何を買ってたんだい」

 きょとんとして。

 リフは手の指を折って数えるように。

「日用品、山菜、それと矢」

「ああ、それだ」

 タガネが掌を叩く。

 全員の視線がそちらに募った。

「リフは鬼仔だが人は食わん」

「はあ?」

「あの晩、俺と一緒に煮込み鍋を食ったが、あの材料は鹿肉と山菜だけだ」

 タガネは自身の腹部を軽く叩いた。

 夕餉として馳走された鍋は、人の肉ではなく鹿肉である。それは旅人の目利きでも容易に判別がつく。

 それを調理した一品だった。

 ただ鬼仔のリフとしては、もっと栄養分の豊富な人肉が欲しいところ。

「普段は何食ってる?」

「あんな感じと、もっぱら自分で獲った肉だね」

「そうなると」

 クレスへと視線を移す。

「リフは鬼仔の出来損ないだ」

「そんな例は聞いたことがない」

「それが錆を湧かせてるんだろ」

「………」

「魔獣と人間の半性、親の魔獣は何だ?」

「――それは私が説明しよう」

 水飛沫が上がる。

 渓流から川岸へ、眼鏡の男が這い出た。

 匍匐(ほふく)して熾火のそばへと寄る。濡れ鼠となったシュバルツだった。

 一同が憮然として彼を見る。

「私の顔に何かついているのか」

「なぜ川から?」

「逃走経路として使った」

「真冬の河川に?」

「存外追い詰められてしまってな」

 事も無げに語る。

 リクルまでもが蒼褪めていた。

 凍てつく水温すらシュバルツに痛痒(つうよう)は無いのか、平然と熾火のそばで服を脱ぎだした。濡れた後の体を容赦なく吹き付ける寒風も平気らしい。

 全員が感嘆を通り越して畏怖する。

「そ、それで調査結果は?」

 一等早く冷静さを取り戻し。

 クレスが彼の報告をうながした。

「集落の民家は、すべて鬼仔の物」

「それで?」

「集落の北の洞穴に産屋(うぶや)がある」

 シュバルツが北側を指した。

「そこに全ての答えがある」





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