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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」下門
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 熾火の前に。

 タガネが仁王立ちになっていた。

 足元では、もう一人のタガネ――として姿を(いつわ)っていた少年が頭を雪につけて謝罪していた。

 隣ではリフが困惑している。

 クレスは薬湯を飲みながら、面白そうに傍観する。薬師の娘も、我関せずと背を向けて追加の薬湯をこしらえていた。

 そして。

 タガネはただ低い声で。

「遺言は」

「すみませんでした」

 少年が面を上げる。

 これもまた、今年になって知りあった顔。

 元革命派として帝国で暗躍していた少年リクルだった。以前は、タガネによって宮廷調剤師見習い、もとい捕虜として王国に送られた。

 リクルは再び頭を地面につけて猛省する。

「おまえさんもクレス達と」

「はい」

「シュバルツもか」

「今は集落へ調査中です」

 タガネは嘆息を禁じ得ない。

 光魔法の使い手であるリクルは、光に依存している眼球の視覚情報を操作して、姿形さえも相手に錯覚させてしまう技術がある。

 諜報(ちょうほう)には適した能力。

 シュバルツはその側近として活動している男。

 この二名の連携力は高く、クレスの片腕を斬り落とすにまで至った。

 ただ。

「なんで俺の皮を被ってた?」

「り、リフさんを……集落から連れ出すために」

「だから、なぜ俺の姿を?」

 露骨に顔を背けた。

 リフを集落から連行する。

 それは説明がなくとも、事情聴取のためだとは察せる。シュバルツが(おとり)になって鬼仔を引きつけ、その間に引き抜く。

 その策は悪くない。

 それでも納得がいかなかった。

 蒼ざめた様子にタガネは頭をわし掴みにした。

 強引に視線を引き戻させる。

「な、ぜ?」

「……た、タガネさんと彼女は知人ですし」

「それで?」

 タガネはリフを一瞥した。

 すると、その顔に朱が差している。

 先刻のクレスのようだった。

 明らかに、タガネに対して異様な反応を呈する。

「俺の姿で何をした?」

「……い、色仕掛けを」

阿呆(あほう)めが。効くわけねぇだろ」

「実際に有効でしたが」

「そういうのに疎くて動揺してただけだろ」

「いや、効いてますよ」

「おまえさん、人を見る目はないらしいな」

 リクルを突き放した。

 倒れたところへ、レインがその体の上に乗る。

 リクルの擬態(ぎたい)

 これを真っ先に解除させたのはレインだった。

 寝起きでタガネが二人であることに動揺し、その片割れが偽物であると気づくや魔素を吸収して本性(しょうたい)を暴いた。

 それから。

 レインは不機嫌である。

「ふゆかい、性悪」

「ご、ごめんね」

「きらきらのぴかぴか嫌い」

「きら、ぴか……?」

 レインの尻に敷かれ。

 クレスは地面に伏せていた。

「それで、リフについてだな」

 タガネは二人から視線を外し。

 リフの方へと体の前面を向けた。

「リフは敵ではない」

「その根拠は?」

 クレスが空かさず問を投げる。

「根拠は、錆だ」

「錆?」

「リフが狩猟し、捌いた時点で毒性を持つ」

「ほう」

「体の各所に錆が湧き、体が動かなくなる」

 タガネは自身の体を叩いた。

 今はレインの処置により、どこにも無い。

 ただ、錆の拘束力は強く、魔法による解除そのものが有効かも疑わしい。

「鬼仔に、そんな奴の肉を食わせると」

「同じ症状が起こる、か」

「たしかに()だな」

 一泊したとき。

 リフは角について、それを病だと明かした。

 仔細は本人すら了解していない、周囲の口振りを信じての発言である。

 それをタガネが聞いたとき、村八分(むらはちぶ)と呼ばれる疎外かと思った。

 たしかに、発症すれば動けない。

 立派な病ではある。

 老人にとって、それが懸念だった。

 だから、まずリフの家に宿泊したかを迂遠な言い回しで確認した。次に、摂食した食物についてを探っている。

 鬼仔の養分たりえるか。

 それを見定めていたのだ。

「リフの存在は、鬼仔の養育を妨げる」

「だからリフは無関係と」

「だから適当に病だと遠ざけたんだろう」

 従って。

「それを配慮する人間」

「ああ」

「あの老人が集落の管理責任者だな」

 敵の頭目(とうもく)は。

 あの老人なのだと推察した。





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