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一人の男は集落を散策していた。
民家を訪ねては、一つずつ中へ入る。
生活の痕跡を見つけては、入念に確かめる。台所、桶の水、戸口などの埃……それらを本物かどうか検分した。
鼻にかけた眼鏡をくい、と上げ。
「予想通りですな」
満悦の相でうなずく。
調べた結果について思考を巡らせて。
また別の民家へと調査を移行する。
作業を飽くことなく繰り返し、自身の考察を突き詰めていく。
そうして数軒を巡って。
「やはり東側か」
男は一つの解を導き出した。
求める物は東側にあると断定する。
「では、行こうか」
そちら歩み出して。
男は足を止めて周囲に視線を走らせた。
しばらく立ち尽くし。
身を低くしながら雪を蹴って駆け出した。
それに遅れて、彼の足元に矢が突き立つ。晴れた寒空に不穏な影として放たれ、風をつんざく音とともに飛来する。
男の疾走。
おいすがる矢の群。
北の山から弦の撥ねた音がする。
南側からは雪を蹴散らす雑踏。
「長居が過ぎたか!」
男は片手に武器を取る。
右に長剣、そして左に短剣。
長さの異なる得物を手にして、迫る足音に備えた。
「見つけた」
「今日のご飯」
民家の隙間から。
複数人の影が飛び出した。
誰も彼もが、額に角を有し、肩部が大きく盛り上がった異形の人間だった。
一人目が身の丈を超える斧を、大上段から振り下ろしながら飛びかかって来る。
しかし。
それは男の大きく手前の空を斬る。
一人目が驚愕に立ち止まった。
その喉元に短剣を叩き込んで沈黙させる。
「はは、そうか」
男は足を止めず。
追走する影と矢に嘲笑を向けた。
「貴様らには二人に見えたか」
一人目が返り討ちに遭い。
動揺しているのか、後続している襲撃者たちの動きは鈍かった。
距離を一定に保ち、様子を窺っている。
矢の追走が止まった。
男は立ち止まって翻身し、迎撃の構えを取る。
「さあ、来なさい」
襲撃者が包囲の輪を作る。
じりじりと。
ゆっくりと躙り寄って来る。
「あの方の魔法が効いている間に片付けたいな」
独りごちて。
男は輪の一部へと突撃を敢行する。
包囲されたときは、距離を詰める前に一方向に突破口を作る。何の衒いもない戦場での定石であり、しかし一人では無謀な行為であった。
予測外の行動に。
襲撃者たちの動きが止まる。
その当惑のすきを突いて、男は斬りかかった。
一人、また一人と倒す。
そして輪を抜けて、東側へと回り込みながら駆けた。
「さあ、こちらですよ」
襲撃者たちが追走する。
男は一人ほくそ笑んだ。




