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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」下門
112/1102



 一人の男は集落を散策していた。

 民家を訪ねては、一つずつ中へ入る。

 生活の痕跡を見つけては、入念に確かめる。台所、桶の水、戸口などの(ほこり)……それらを本物かどうか検分した。

 鼻にかけた眼鏡をくい、と上げ。

「予想通りですな」

 満悦の相でうなずく。

 調べた結果について思考を巡らせて。

 また別の民家へと調査を移行する。

 作業を飽くことなく繰り返し、自身の考察(こうさつ)を突き詰めていく。

 そうして数軒を巡って。

「やはり東側か」

 男は一つの解を導き出した。

 求める物は東側にあると断定する。

「では、行こうか」

 そちら歩み出して。

 男は足を止めて周囲に視線を走らせた。

 しばらく立ち尽くし。

 身を低くしながら雪を蹴って駆け出した。

 それに遅れて、彼の足元に矢が突き立つ。晴れた寒空に不穏な影として放たれ、風をつんざく音とともに飛来する。

 男の疾走。

 おいすがる矢の群。

 北の山から弦の()ねた音がする。

 南側からは雪を蹴散らす雑踏。

「長居が過ぎたか!」

 男は片手に武器を取る。

 右に長剣、そして左に短剣。

 長さの異なる得物を手にして、迫る足音に備えた。

「見つけた」

「今日のご飯」

 民家の隙間から。

 複数人の影が飛び出した。

 誰も彼もが、額に角を有し、肩部(けんぶ)が大きく盛り上がった異形の人間だった。

 一人目が身の丈を超える斧を、大上段から振り下ろしながら飛びかかって来る。

 しかし。

 それは男の大きく手前の空を斬る。

 一人目が驚愕に立ち止まった。

 その喉元に短剣を叩き込んで沈黙させる。

「はは、そうか」

 男は足を止めず。

 追走する影と矢に嘲笑を向けた。

「貴様らには()()()()()()()

 一人目が返り討ちに遭い。

 動揺しているのか、後続している襲撃者たちの動きは鈍かった。

 距離を一定に保ち、様子を窺っている。

 矢の追走が止まった。

 男は立ち止まって翻身(ほんしん)し、迎撃の構えを取る。

「さあ、来なさい」

 襲撃者が包囲の輪を作る。

 じりじりと。

 ゆっくりと(にじ)り寄って来る。

「あの方の魔法が効いている間に片付けたいな」

 独りごちて。

 男は輪の一部へと突撃を敢行する。

 包囲されたときは、距離を詰める前に一方向に突破口を作る。何の(てら)いもない戦場での定石であり、しかし一人では無謀な行為であった。

 予測外の行動に。

 襲撃者たちの動きが止まる。

 その当惑のすきを突いて、男は斬りかかった。

 一人、また一人と倒す。

 そして輪を抜けて、東側へと回り込みながら駆けた。

「さあ、こちらですよ」

 襲撃者たちが追走する。

 男は一人ほくそ笑んだ。





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