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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」下門
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 少し日が昇った頃である。

 まだ眠気で重い瞼をこじ開けて。

 玄関の戸を開けて桶を手に外へと出る。

 厚着をしているが、隙間を見つけては滑り込んでくる冷気に身を震わせ、強張った口元から小さな悲鳴が漏れる。

 また雪囲いは高く積もっていた。

 足掛(あしがか)りとなる部分を探し。

 慎重に上へと登って行った。

 寝起きで判断力も十全でないせいか、幾度か転落しそうになる。

 そんな危うげな登攀(とうはん)を終え。

「うぅ、やっとだ」

 リフは表通りへと脱出した。

 もう軒木(のきぎ)と屋根の一部しか見えない様子に、雪掻きの必要性を垣間見る。

 豪雪地帯とあって、それなりに雪に対する生活の心得があった。

 ただ。

「ボク一人でやるのはなぁ」

 この厖大(ぼうだい)な積雪量。

 一人の手には余る大事の規模だった。

 ようよう辺りを見渡せば。

 珍しく晴れており、一面の銀世界が広がった。

 雪で霞んでいる景色も鮮明に見える。

 他の民家もまた、半身はおろか山の雪化粧(ゆきげしょう)じみて真っ白になっている物もあった。

 リフは戦慄して。

「タガネさん、大丈夫かな」

 昨朝に出たタガネ。

 雪が止むまでと滞在を勧めたが、冬の食糧(しょくりょう)が貴重だとは彼も知っているので、長く厄介になるのを悪く思って翌日に出ると言っていた。

 その出発の日があの有り様。

「無事に温泉郷に着いてますよーに」

 手を合わせて。

 旅路の幸福を祈った。

 片手に兎肉を提げて、西側へと重い足取りで向かった。

 下処理も済ませ、保存状態のいい物を今から集落で売って生活に必要な物を分けてもらう。

 狩りによって得た獲物。

 それはリフにとって食糧であり。

 一つの貨幣(かへい)でもあった。

「今日は山菜にしよう」

 タガネに供した夕餉(ゆうげ)

 久しく自分でも作っていなかった煮込み鍋。

 その汁にしみた野菜の甘みが絶妙だった。味を思い出しては腹が鳴る。

 リフは兎肉を見て。

 うきうきと足を進ませた。

「リフ」

「うぇっ?」

 警戒心もなにも緩みきったとき。

 そこに人の声がして、思わず奇声で応える。

 リフが辺りを見回すも人はいなかった。

「こっちだ」

「うわぁっ!?」

 肩に手が置かれて。

 あわてて、ばっと身を翻す。

 そこに、旅人のタガネが立っていた。

「よう」

 微笑みながら挨拶する。

 そのタガネの美貌にどきり、と心臓が跳ねた。

 この前とは雰囲気が異なる。

 妖しげな、色香(いろか)とも呼べるものを漂わせて。

「少し話があるんだが」

 リフを誘っていた。




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