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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」上門
109/1102



 村では雪上に複数の影が立っていた。

 (まだら)に残る血痕。

 それを輪になって見下ろしている。

「逃したんか」

 そこへ、重い足を運ぶ老人。

 自身の首筋を揉みながら、険しくしした面で血痕を検める。出血量からして、与えた傷は急所を捉えてはいないが浅くはない。

 それに。

「錆も湧くだろう」

 その言葉に影たちがうなずく。

 老人は嘆息して、足元の雪を蹴る。

 血痕が粉雪の中に隠れて、すぐに白い雪路へと戻った。

 影たちもそれを真似て。

 次々と雪によって血痕を消す。

「最近物騒だしな。噂も残らんようにせんと」

 老人が東の山を一瞥する。

 軽く手を上げると、集団の半数がそちらへ疾駆した。深雪の土地を、獣のような速度で移動していく。

 もう半数へと振り向き。

「手負いの獣はあれで充分」

 もう一方を指差した。

「あっちに二人いる。先に仕留めてこい」

 指示を受けて。

 影はなんの逡巡もなく飛び出した。

 西側へ向かう背中を見送り、老人は禿()げた頭をなでて細く息を吐く。

 その額の一部が怪音(かいおん)を立てて隆起し、一対の鋭い尖端の角を形成した。

 老人の全身に錆が現れる。

「あの子も年頃だしな」

 剣呑な光を湛えた眼差しで。

 老人はしずかに東側の景色を眺めた。

「しっかり栄養を取らにゃ」

 口許には笑みを浮かべ。

 唇の隙間からのぞいた鋭い牙を舌で舐めた。






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