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【連載版】竜の器と囚われの贄姫 ~竜にされた家族を助けるため、貴族の家を飛び出し世界最強の男と傭兵になります~  作者: 神崎右京
第三章

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第31話 竜神教の禁術③  (Side:アルヴィン)

「この布、持って帰って大丈夫だと思うか?」


 カルロは、雑に親指で壁に掛けられた布を指し示す。


「まぁ……大丈夫じゃないかな。一度徹底調査された後だから、もう一度調査が入ることは考えにくいだろうし――残しておいても、信者がこっそり取りに戻って来るくらいだと思うよ」

「よし。んじゃ、拝借するか」


 カルロは軽く言って、ひょいっと上方に指を振る。魔法で布を吊っていた紐が切断され、はらりと落ちて来た。

 僕はそれを受け止め、持ち運べるようにくるくると端から巻き込んでいく。

 カルロは光源を周囲へと走らせ、他に見るべきものがないかを最終チェックしているようだった。


「儀式や禁術については、王都の資料館の方が情報が多いか……」

「うん。ここに残ってる資料は、全部、過去に押収されたのと同じ内容だから、わざわざ持ち帰る必要はないかも」


 布を巻き終えて顔を上げると、カルロは洞窟に描かれた壁画を眺めているところだった。


「どうしたの?」

「いや……少し、気になっただけだ」


 カルロが光量を上げると、暗がりの中に、ぼうっと絵が浮かび上がった。


「これは――”器”の儀式の様子、か?」


 カルロは首をかしげて疑問を口にする。

 一番大きく描かれているのは、翼を広げた竜と、竜に背を預けるようにして眼を閉じる人間――首飾りを身に着けているのをみると、女性だろうか。”器”に選ばれ観念する女性の背中に、竜が襲い掛かり、今にも取り憑こうとしている様子にも見える。

 

「こっちにも続いてるのか」


 壁一面を使って描かれているそれは、物語のように、竜と女性の先にも続いて行く。

 黒々とした闇が渦巻く世界で人々が竜に向かって首を垂れるも、竜から放たれた光は無情にも世界を焼き払う――そんな光景に見えた。


「何を暗示してるんだろうな。芸術ってのはよくわからん」

「この禍々しい感じ――描かれてる黒い闇は、恐化の象徴じゃないかな」


 なんでも理詰めで考えるカルロに苦笑し、僕なりの見解を口にした。


「ふぅん……じゃあ、”器”を得て力を増した竜が世界を滅ぼそうとしてる中、恐化で苦しむ人間が竜に命乞いをしてる様子ってことか?」

「そう、だね……そういう風にも見えるけど」


 僕は顎に手を当てて、じっくりと壁画を眺める。

 ふと、竜神教の教えを思い出した。


「彼らにとっては、救いのシーンなんじゃないかな」

「?……どういうことだ?」

「だって……ほら」


 僕は、竜が放つ光を指さす。


「実際の竜がどういう存在かは別として……信者にとって、竜は神様なんだろう?真っ白な光線が、闇を切り裂くようにして突き進む――恐化が進み混沌とした世界を照らしてくれる存在として描いているんじゃないかな?」


 竜神教が禁教とされた理由は、竜が世界を滅ぼす存在だと伝わっているせいだ。

 そんな存在を「神」と崇める――それはすなわち、世界の滅亡を願うのと同義だから。


「竜神教は教義の中で、竜は世界を救う存在だと伝えているんだ」

「恐化で人間や自然が滅びていくのが、”救い”だと?だいぶ荒廃した教義だな」

「うぅん……その是非は置いておくとしても、だよ。この絵には、逃げ惑う人間や燃え盛る炎が描かれてるわけじゃない。だから僕は、『滅び』や『絶望』よりも『希望』とか『救い』を感じるんだ」

「希望……救い……ねぇ?」


 カルロは首を傾け、全く理解できないという声で呟く。黒魔法に秀でる彼だが、芸術を理解する感覚は鈍いようだ。

 これは、僕が貴族として芸術を嗜むことを教養として幼いころから叩き込まれてきたことも関係しているだろう。


「さすがに洞窟の壁一面に大きく描かれている壁画を持って帰るわけにもいかないから残されているけど、報告書には内容が書かれていたよ。きっと、精巧に写し取ったものは、王都に送られて研究に回されてるんじゃないかな。特別資料館にあると思うから、王都に行けば何度でも見られると思う」


 平民のカルロが入れるエリアにはないだろうが、フロスト家かレーヴ家が便宜を図ればいい。……また噛みつかれそうだから、口には出さないでおくけれど。

 カルロは「ふぅん」とつまらなさそうに返事をしてから、当たり前のような顔をして、僕が抱えていた布をひょいと取り上げる。代わりに持ってくれるらしい。

 

「まぁ、何にしても次は王都、か。鉄道を使うにしても、少し長旅になるな」

「もうすぐ社交シーズンだし、混雑する前に、早めに移動した方が良いかも」

「だな」


 くぁ、と欠伸をしながら返事をするカルロはいつも通りだ。

 僕はその横顔を眺めながら、あとどれくらい、こうして彼の隣にいられるのだろう――と考えるのだった。


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