第96話 戦鬼族の血
「なにそれ? 全然知らないけど……」
「――あきれたもんだねぇ。自分の体にどんな血が入ってるかもわからないなんてねぇ」
マリスが呆けた顔で答えるとラミアが呆れ眼でマリスを見た。
「その様子だと三鬼族も知らなそうだね」
「全く知らないわよ!」
やれやれと言った様子を見せるラミア。それを見て若干ムキになってマリスが叫んだ。
「で、その三鬼族って一体何なの?」
「そんなものわざわざ教えてやる筋合いじゃないね!」
ラミアに説明を求めたマリスだったが素直に聞くつもりはないようだ。ラミアが再び尻尾で連続攻撃を仕掛けてきた。
「もう同じ手は通じないわよ!」
ラミアがブンブンっと振り回す尻尾をマリスは躱していく。その表情には余裕が感じられた。
「調子に――乗るな!」
「!?」
するとラミアが口から毒の息を吐き出した。それを認めたマリスは瞬時にナツに駆け寄り突き飛ばした。
「うわっ!」
「ごめん! でもこれで毒は――ゲホッ!」
毒に巻き込まれないようマリスはナツを突き飛ばしたのだ。しかし、毒はマリスを捉えていた。
「マリス、そんな俺の為に……」
ナツが悲痛な面持ちで呟くと、ラミアがゆっくりとマリスに近づいて行くのが見えた。
「馬鹿な奴だねぇ。あんな小さな人間の為に死ぬことになるんだから」
「そう簡単にはいかないよ!」
勝ち誇ったように笑うラミアだったが、マリスは毒を喰らおうがお構いなしにラミアに近づき蹴りを放った。
「な! 毒が効いてないのかい!」
「多少は痺れる感じがあるけど、動けないほどじゃない!」
蹴りを受け目を白黒させるラミアにマリスが答えた。どうやら毒の息もそこまで効果はなかったようである。
「くそ! これが戦鬼族の血かい。毒の効果も薄いなんてねぇ」
「よくわからないけど、これで決めるわ!」
再びマリスが拳に力を込めていく。ラミアの表情が歪んだ。
「やれ! マリス姉ちゃん!」
「はぁああぁああぁああ!」
「そうはいかないよ!」
マリスが地面を蹴るとほぼ同時にラミアが腕を伸ばした。その手はマリスの横を通り過ぎ、ナツを捕らえた。
「うわっ!」
ラミアが腕を戻しナツを近くまで引き寄せる。
「さぁ大人しくしな! このガキを殺されたくなかったらねぇ」
「な! ひ、卑怯よ!」
「ふんっ、何とでも言いな!」
ラミアがマリスを嘲笑うかのように言い放つ。ナツはラミアに首を掴まれ苦悶の表情を浮かべていた。
「さぁ、どうするんだい?」
「……わかった。言う通りにするからナツには手を出さないで」
マリスが構えを解き大人しくなった。ナツを人質に取られては成すすべもない。
「だったらそのまま大人しくしておくんだね。絶対に動くんじゃないよ」
「……わかったわ」
マリスがそう答えた瞬間ラミアの尻尾が振られマリスを吹き飛ばした。地面を転がるマリスだがそれでも攻撃が止まることはなく何度も尻尾で叩きつけてきた。
「あ、ぐ……」
「あはは! これでもう身動き取れないだろうねぇ」
「……言うことは聞いたわ。ナツを放して……」
高笑いを決めるラミアにマリスが声を振り絞り言った。ダメージが大きいらしくもうまともに戦えそうにない。
「うん? 何を言ってるんだい。絶対に動くなと言ったのにあんたは動いただろう? だから約束は無効だよ」
「ぐっ、お前、最初からそのつもりで……」
ラミアの発言にマリスは顔だけを向けて悔しそうに歯噛みした。ラミアには約束を守るきなどサラサラなかったのである。
「全く、お前はお人好しな奴だな」
その時だった――マリスの耳に届く少年の声。それを耳にしマリスは自然と笑みがこぼれていた。
「はは、やっぱり来てくれたんだねリョウガ――」




