第95話 ラミアとの再戦
「マリス、なんでお前が……」
ナツが困惑した様子を見せた。冒険者に幻滅しているナツにとって、わざわざ自分を助けに来るなど考えられないことだったのだろう。
「そんなの決まってるよ。私が冒険者だから!」
マリスが答え、ニッ! と笑った。ナツの持つ冒険者に対する悪いイメージを払拭するために彼女なりに考えているのだろう。
「ナツ。冒険者だってね、きっとそんな悪い奴らばかりじゃないんだよ。私はそう思う」
「だけど、あのリョウガってのは逃げたじゃん!」
ナツが叫んだ。それを聞いたマリスが眉を落とす。
「ナツ。あのねリョウガは逃げたわけじゃないんだよ」
「へぇ。もう一人のオスは逃げたのかい」
ナツに説明しようとしたマリスだがそれを阻むようにラミアが口を開いた。
「やっぱり所詮は人間だねぇ。私に恐れをなして逃げ出したのだから前の連中と一緒さ」
「違う! リョウガは恐れたんじゃない!」
前のという言葉にマリスが反応した。ラミアが言っているのが前に村を見捨て逃げた冒険者だと理解した。だからこそリョウガと一緒にはされたくなかったのだろう。
「それに私は信じてる。リョウガは絶対戻ってくるってね」
「フンッ。おめでたい頭だね。だけどそうだねぇ。戻ってきた時のためにあんたらの頭だけは残しておいて上げようかね」
「やらせるわけないでしょ!」
マリスが踏み込み一足でラミアの懐に飛び込む。拳を握りしめラミアの腹部に撃ち込んだ。
「フンッ。効かないねぇ」
マリスの拳を受けるもラミアはビクともしなかった。それどころか余裕の笑みすら浮かべている。
「マリス! 危ない!」
ナツが警告した。ラミアが尻尾をマリスに叩きつけようとしているのに気づいたからだ。
「ありがとうナツ!」
尻尾が当たる前にマリスは高く跳躍しラミアの背中側に降り立った。だがそこで攻撃の手を緩める気はないとばかりにラミアがぐるりと上半身を回した。
人間ではありえない可動域でラミアが背中側にいるマリスを視認し鋭い爪で切り裂きにかかる。
追撃しようとしていたマリスだが、それに気が付きすぐさま飛び退いて距離を取った。
「まずはお前から喰らってやろうかねぇ」
そう言って舌なめずりをするラミア。その目はしっかりとマリスを捉えていた。
「そう簡単にはさせない! ハァアアアァアアアァア!」
マリスが腰だめになり拳に力を集中させた。青白い光が集束しマリスの右拳が輝き始める。
「――何だいこの圧力は」
ラミアが眉をしかめる。マリスから発せられる膨大な魔力に気づいたのだろう。マリスは強化魔法ぐらいしか使えないが魔力そのものは高いのである。
「喰らえ!」
マリスが加速し一瞬にして近づき拳を撃ち出した。その拳はラミアの腹部にめり込み、かと思えばラミアの巨大な体が大きく吹っ飛び壁に叩きつけられた。
「グフッ!」
「どう! 今度は効いたでしょう!」
マリスがどうだ! と言わんばかりに声を張り上げた。洞窟の壁が砕けラミアも苦悶の表情を見せていた。
「あまり、調子に乗るなよ人間が!」
ラミアの目が赤く光った。途端にマリスの視界が一変。一匹だった筈のラミアの数が増え四方八方から襲ってきた。
「これは、幻覚!」
「そうさ。だけどねぇわかったからってどうしようもないだろうさ!」
次々と幻覚のラミアがマリスに攻撃を仕掛けてくる。マリスは黒目を忙しなく動かし本物を見定めようとしていた。
「無駄さあんたにこれは見切れな――」
「そこ!」
マリスは幻覚の攻撃には見向きもせず本体に蹴りを放った。命中したラミアはギョッとした顔を見せ地面を転がった。
「クッ! 馬鹿な! 何で効かない!」
「なんとなく、気配でわかったのよ!」
マリスが堂々と答えた。ラミアが目を白黒させつつ立ち上がる。
「なんだいそれは。いや待てよあんたのその角、さては魔族だね」
「……半分はね。でももう半分は人間よ!」
マリスが答えた。それを聞きラミアが納得したように頷く。
「そういうことかい。だけどその力、一度は受けた幻覚を今度は見切った戦闘センス。さてはあんた戦鬼族の血が入ってるね」
「え?」
ラミアの発言にマリスが疑問の声を上げた。どうやらマリス自身理解してなかったようである――




