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無能だとクラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、召喚された異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~  作者: 空地 大乃
第四章 暗殺者の選択編

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第89話 ラミアの怒り

「クソ! 一体何だって言うんだい!」


 ラミアは村を離れたあと塒にしている洞窟に戻っていた。そこで悔しさに滲んだ顔で壁を叩く。重苦しい音が洞窟内に響き渡った。


 ラミアが憤っているのは村での自身の言動を振り返ってのことだ。本来であればあの場で村人の何人かを餌として連れ去っていっても良かった。

 

 いや、それ以前に生意気にも自分に歯向かった女をその場で喰らってやってもよかった。だが――出来なかった。

 感じたのだ圧倒的強者の気配を。とんでもない圧を。故に恐れた。その場に居続けることも危険と感じた。だから理由をつけて村から立ち去った。


 塒に戻り恐怖心が怒りに変わるまで時間はかからなかった。そしてやりようのない感情を壁にぶつけ続けていた。


「このラミアを恐れさせた相手……一体どこのどいつだ!」


 ラミアが怒りの声を上げた。だが、それに答えるものはいない――筈だった。


「おやおや。随分とご機嫌斜めなようですねぇ」


 その時だった。何者かの声が洞窟内に響いた。人の声のようだった。ラミアにとってそれはあり得ないことだ。この洞窟にはラミア以外で住んでるのはいない。


 まして人の声などありえなかった。この洞窟には精々ラミアが食べ終えた人骨が転がっているぐらいだからだ。生きている人間など存在するわけもない。


 弾かれたようにラミアが振り返ると、コツコツと足音を響かせ人間が一人近づいてきた。癖のある白髪をした男だった。縁のない丸眼鏡を掛けており顔には人工物のような笑みを貼り付けていた。


 丈の長い白衣を着た男はラミアからすれば随分と小柄に見えた。もっとも人間としては平均ぐらいの身長だろう。


「人間、いつ入り込んだんだい!」


 怒気のこもったラミアの声が洞窟内に響き渡った。ラミアはただでさえ機嫌が悪かった。そこへ更に割り込んできた相手の存在に苛立ちと怒りがこみ上げてくる。


「普通に洞窟の入口から入って来ましたよ。ドアがないのでノックはしませんでしたけどね」


 白衣の男はあっけらかんと答えた。冗談めかした台詞でもあったがそれが余計にラミアの神経を逆撫でた。


「――人間、このラミア様を舐めてるのかい!」


 ラミアが尻尾を振るった。狙いは勿論白衣の男だった。


「いけないなぁ。頭に血が上りすぎですよ。カルシウムいるかい?」

「――ッ!?」


 ラミアがギョッとした顔で振り返った。そこに白衣の男が立っていて小魚の干物が入ったガラス瓶を差し出してきていた。


 ラミアの頬に汗が滴る。確かに尻尾で男を捉えたと思っていた。だが実際は背後を取られていた。


「この私の攻撃を躱したのか?」

「う~ん。どちらかというと予測かな。どんなに強力な攻撃も前もって動いていれば避けるのは容易いからね」


 あっけらかんと男は答えた。ラミアが怪訝な顔で男を見下ろす。


「――まさか、お前か! さっきのは!」


 思わずラミアが声を張り上げ問いかけていた。村で感じた圧力、その相手がこの侵入者なのではと考えたのだろう。


「残念。確かに間接的に観察はしていたけど君が感じたのは別な相手からさ。しかも君の近くにいた少年こそがその力の持ち主さ」

 

「な、何だって?」


 白衣の男の言葉にラミアが大きく目を見開いた。ラミアは思い出していた。確かにあの場にはもう一人いた。あの女と一緒にいた仲間だ。結局あの場では手を出してくることもなくラミアは単純に自分の力に恐れをなした臆病者と決めつけていた。


「あんな弱そうな人間に、私が、ありえない!」

「う~ん。君は知恵こそあるようだけどまだまだ人を見る目はないようだねぇ。もっと感性を磨いた方がいいと思うよ」


 白衣の男が挑発めいた口調で言い放った。ラミアの表情が強張る。


「何だ貴様は? そんなくだらないことを知らせるためにここに来たというのか!」

「勿論目的はあるさ。寧ろ君にとって良い提案をしにね♪」


 男はそう言うと懐から一つの実を取り出した。毒々しい色をした実だった。男の奇っ怪な言動にラミアは動揺を隠せない。


「これは私が作成した進果実(しんかじつ)だ。これを食べれば君は更なる進化を遂げパワーアップ出来る。どう? 魅力的な実だろう?」

「進化だと?」


 ラミアが目を見開かせた。その視線が彼の持つ実に向けられたが男の言うことを真に受けてはいないようだ。


「人間の用意した物など信じられるか! 大体そんなものなくても私は強い!」

「強い? う~ん。確かにそれなりにはやるだろうし知識もある。それぐらいでないとこの実の力も発揮できないからいいんだけど――ちょっと調子に乗りすぎじゃない? ダメだよ過信は」

「黙れ――」


 ラミアが口から毒の息を吐き出した。男の全身が煙に包まれる。


「調子に乗りすぎたな。私の毒を受ければもう無事では済まない――」

「悪いけど。私にその手の毒は通じないよ」

「何ッ!?」


 毒の息を受けても男は平然とその場に立っていた。相変わらずの貼り付いたような笑みを残したまま。


「ま、いっか」

 

 そして男はラミアに近づいたかと思えば指でラミアの体を何箇所か突いた。その瞬間ラミアの体が傾倒する。


「な、う、動けない――どうして?」

「私は研究者だよ。君たちみたいな魔獣の体の構造ぐらい見ればわかる。そうなればウィークポイントをこうやって突いてやるだけで動けなくするぐらい造作もない」


 ヘラヘラとそんなことを語る男にラミアは不気味さを感じ、そして恐れも抱いていた。


「その実を食わせるつもりか……」

「そんなことはしないよ。無理やり食べさせたところで意味はないからね。だからもし君がこれを食べたくなったら叫べばいい。そうしたらなんとか食べさせて上げるよ」


 男が答えた。ラミアは察した。この男は自分の実力を知らしめた上で、実の必要性を解いているのだと。だがそれでも今すぐ食べようという気にはなれなかった。


「――お前の名は?」

「私かい。私の名前はエボ・リジョン。錬生術師をやってるものだよ」


 そして男は自分の名をラミアに名乗り踵を返した。ラミアは去りゆくエボの姿を眺めながらその名を復唱するのだった――

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