幕間 七頭
「……つまり七頭の一つがあっさり取られたということか」
大広間の中心で一人の男が呟いた。その正面には暴虐の狼に所属していたネイラの姿があり、更に周囲には六人の男女の姿があった。
「全く七頭の一つがこうもあっさり潰れるとはな。確かあのガンギルを推薦したのは猿だったな。一体これからどうするつもりだ?」
大柄な男が問いただす。彼ら七頭は文字通り七つの頭とそれを束ねる大頭領によって成り立つ大盗賊団である。七頭はそれぞれが個別の盗賊団として活動しているが、その全てが他の盗賊団とは比べ物にならないほどの実力を誇っている。
「それにしてもネイラはよくもまぁ私たちの前に姿を晒せたものね」
大男に続いて別の女が言葉を発した。彼女は七頭の内、蛇の称号を授かった盗賊団【猛毒の蛇】の頭である。
「……あの状況ならそうするのが一番正しいと思ったまでよ。無理して残ったところで捕まるだけだったからね」
蛇の頭に対してネイラが答えた。自分の判断は間違っていないという感情が言葉の節々に滲んでいる。
「ネイラの判断は正しいと私も考えている。大頭領、どうか寛大な処置を」
大頭領にむけて進言したのは猿の称号を授かりし盗賊団【悪辣な猿】の頭であった。彼は暴虐の狼の頭だったガンギルを推薦した男でも有る。
「――確かに頭が潰れたことを迅速に知らせに来たことは評価してもいいだろう。だが、問題は潰れた頭の再生だ」
「それであれば私に考えが――」
「ちょっと邪魔するよ」
その時、その場に二人の男が顔を出した。全員の視線がその二人に注がれる。
「……貴様、勝手に組織から抜けておいて今更どの面下げて出てきやがった」
グルルゥ、と獣のような唸り声を上げた男がやってきた二人を睨みつけた。
「そんな怖い顔するなって虎の旦那。何、俺が担当していた狼があっさり潰されたと聞いてね」
「それがどうしたガロウ。もうお前には関係のないことであろう?」
不機嫌そうに猿の頭が問いかけた。ガロウが戻ってきたことをあまり歓迎してない様子である。
「関係はあるさ。どうだい大頭領? この機会に俺がまた狼の座に戻ってもいいぜ」
ガロウが親指で自分を指さしながらそう宣言した。これには他の頭も驚きを隠せない様子である。
「――貴様、自分で何を言っているのかわかっているのか? この状況、今すぐ処刑されても文句は言えないのだぞ?」
「おっと相変わらず怖いねぇ竜の旦那は」
ガロウがケラケラと笑いながら竜の称号を授かりし頭に答えた。その飄々とした様子をいけすかないと感じている頭たちも多そうである。
「――一つ聞く。ガロウ、何故今になって戻ってくるつもりになった?」
「大したことじゃないさ。俺がここを抜けたのはただ詰まらない、それが理由だ。だけどな、最近ちょっと気になる奴を見つけてな。そんなのを相手できるなら、またこの仕事に戻ってもいいかとそう思えたのさ」
「貴様、そんなくだらない理由で一度抜けた我ら七頭に復帰できると考えているのか?」
猿の頭が苦々しそうな顔つきで問いかけた。
「思ってるさ。自画自賛ってわけじゃないが、俺はここでも相当な実力者だったと自負してる。少なくともあんたが俺の代わりに置いた雑魚なんざよりは頼りになると思うぜ?」
「……クッ」
猿の頭が表情を歪めた。
「……確かにガロウの言うことも一理ある。これから探すにしてもお前ほどの実力を持つものはそう現れないだろうしな。いいだろう今一度貴様に七頭の一つを任せる。ただし、次はないと思え」
大頭領がそう答えた。そしてその言葉に猿の頭が反応する。
「お待ち下さい大頭領。このガロウを七頭に認めるなど」
「私の決定に文句があるというのか?」
「う、そ、それは――ありません……」
大頭領の圧を受け猿の頭も黙った。他の頭も大頭領の決定には従うつもりなようだ。
「それじゃあ決定ということで。あぁそれと今後はその暴虐の狼なんて名前はやめるんで。そうだな今後は【銀欲の狼】として活動させてもらうよ。んじゃ」
それだけ言ってガロウはもう一人の仲間と一緒に立ち去った。その際に猿の頭の耳元で囁くように言った。
(またお前の思い通り動く傀儡を添えたかったんだろうが残念だったな――)
その言葉を聞いた猿の頭は悔しそうな表情でガロウの背中を見送ったのだった――




