第80話 ダリバとスカーレッドの決断
潮時か。冒険者は危険な仕事だと言われている。俺はまだ危険を感じてはいないがちょっとした仕事でも命を散らしていっている冒険者が多いのも事実だ。
そう考えれば諦めるのは早いほうがいいのかもしれない。もっとも本人が納得の上でかは別問題だろうが。
「この年になってもD級止まりだった。俺だって上を目指そうと思った時期はあったがそれも過去のこと。最近は自分の限界を痛感させられることばかりだった。だから後のことは才能ある連中に任せて俺は大人しく身を引く。そう決めたんだ」
ダリバが俺とマリスを見ながらそう答えた。才能あるに俺たちを含めていたわけか。
正直俺に冒険者としての資質が備わっているかはまだわからない。元々俺なりに普通の暮らしを送りたくて選んだだけだったからな。
「まぁとにかく後は若い連中に任せて今後はもっと楽させてもらうぜ」
ダリバが笑った。から笑いに思えた。
「でもあんた、冒険者やめてこれからどうするんだい?」
「それなんだけどな。実はここのギルドマスターが見舞いに来てくれてな。その時に聞いたんだが、ここの冒険者ギルドに酒場を作る予定らしいんだ。そこを俺に任せてもいいと言ってくれてる」
「酒場を?」
それは意外な話だったな。それならダリバは冒険者を辞めても暮らしてはいけそうだ。
「俺も冒険者だけじゃ暮らしてけない時は酒場の手伝いをしていたころもあるからな。接客業は嫌いじゃないのさ。意外と冒険者よりも性に合ってるかもな」
「へぇ、あんたもそんな過去があったんだねぇ」
スカーレッドが感心したように頷いていた。確かに意外だな。ダリバは冒険者一筋で生きてきたようなイメージだったからな。
「ま、そういうわけだから俺の事は心配しなくていいぞ。今後は酒場で会うことになるとは思うけどな」
そこまで話し、少し疲れたとダリバが言ったので俺たちは部屋を後にしたわけだが。
『……畜生。何でだよ。俺はもっとやれたはずなのに……畜生――』
俺の耳はいい。だから俺たちが部屋を出てからのダリバの声も聞こえてきた。口ではあぁ言っていても本人が納得できてるとは限らない。だが、世の中にはどうしようもないこともあるのだろう。
「ダリバ、冒険者を辞めるのは残念だけど、思ったより元気そうで良かったね」
「本当にそう見えたのかよ」
部屋を出た後のマリスのセリフに反応しスカーレッドが呟いた。スカーレッドはダリバの本心を察していたのかもしれない。
「スカーレッド?」
「あ、いやごめんごめん。だな。だけどあいつが酒場でマスターしてる姿なんて想像出来ないけどな」
そう言ってスカーレッドがいつものノリで笑った。そしてその日は俺たちも宿をとり一日を終えることになった。
ダリバについて俺たちに出来ることは少ない。後は本人が決めることだ。ただ、酒場のオーナーになったら顔を出してもいいのかもな。
「私さ。ここに残ることに決めたよ」
明朝、スカーレッドが俺たちに言った。どうやら拠点をこの町に移すようだ。もしかしたらダリバのことがあったからかもだが冒険者は自由だというからな。きっとそれもありなんだろう。
「もしかしてダリバの事が心配だから?」
「……ま、あいつはあいつでなんとかしてくだろうけどさ。一応は私を庇ってのことだからね。しばらくは見守ってやろうと思ったのも事実さ。だけどあんたらと一緒にした仕事は楽しかったよ。またこっちに来たら顔見せてくれよ」
そして俺たちはスカーレッドとも別れ町に戻ることにした。そして俺たちはまた新しい依頼を探すことになるのだろう――




