第64話 暗殺者のチャレンジ
「全く勝手なことを。賞金をそのまま貰えば済む話だろう?」
「嫌だよ。だって私勝ったと思えないし。でもリョウガなら勝てるんだよね?」
俺がマリスに問うと、マリスが逆に俺に聞いてきた。そういう問題ではないんだがな。
「確かにあいつぐらいなら問題ないがな」
「へぇ、随分と自信があるもんだ」
しまった。ついマリスにつられて答えたが、それを聞いた相手は当然良くは思わないだろう。
見るとガロウが笑顔でウドンは少々不機嫌そうな顔を見せていた。
「こっちとしては筋が通らないと思っていたが、そこまで自信があるなら挑戦権を与えることで手を打ってもいいぞ。なんならこっちが負けたら倍の金貨四十枚支払ってもいい」
「え? いいんですか兄貴?」
ガロウが随分と太っ腹なことを言ってのけたが、それに対してウドンが聞き返していた。いきなり賞金が倍になったことに驚いているのだろう。
「何だ自信がないのかウドン?」
「まさか! 俺が負けるなんてありえないですぜ!」
ウドンがムキになって答えた。挑戦を受けている間は危なかったみたいな顔をしていたが、やはり実際はそれなりに自信があったってことだろう。
「それならウドンは問題ないな。後はそっちだがリョウガといったかい? そっちの子は代わりに挑戦してほしいようだがどうする? 自信がないならやめてもいいし、それなら金貨二十枚はしっかり支払おう」
ガロウが俺に向けて問いかけてきた。言葉の節々に挑発じみた感情が現れている。この程度でムキにはならないが、多少は興味もある。
「リョウガやろうよ!」
「……やれやれ。仕方ない」
上手く乗せられたみたいになってしまうが、賞金が増えるのは悪くないといえるだろう。
だから俺はウドンと相対し相手に一発当てるチャレンジに挑む。
「ルールはさっきと同じだ。ウドンからは手は出さない。制限時間は三分この砂時計の砂が落ちるまで。いいかい?」
「あぁ。いつでもいいぞ」
「そうか。なら早速スタートだ」
「悪いが今回は負けられないぜ!」
ガロウが砂時計をひっくり返すと同時にウドンがこれまでに見せたことのないような動きで周囲を跳ね回った。
「お、おいおいなんだよあれ!」
「これまでと全く動きが違うわ」
「あんな動きが出来たのにこれまで隠していたってことかよ」
観客たちも騒ぎ出す。それはそうか。しかしこの二人恐らくもうここで仕事する気がないな。だからこそウドンも実力を発揮したのだろう。
「さぁ、一発当てられるものなら当ててみろい!」
「わかった」
「グボッ!?」
とは言え、この程度なら俺にとっては問題なかった。動き回るウドンの脇に移動し蹴りをくれてやったらあっさりと吹き飛び地面をゴロゴロと転がった。
「「「「「…………」」」」」
俺の攻撃がヒットしたかと思えば騒がしかった観客もシーンっと静まり返った。直後わずかながら小声で話す声が聞こえてくる。
「え? 終わった、のか?」
「何がおきたか全然わからなかったんだけど……」
「なんだぁ今の……」
俺の動きは殆ど目で追うことが出来なかったようで、観客たちは何がおきたか理解できないようだった。
「おいおいおいおい! すげぇぞあいつ! あいつを倒したんだ!」
「キャア~素敵ぃ~!」
「やるじゃねぇか兄ちゃん!」
そして次にやってきたのは大歓声。どうやら俺がウドンを倒したことで周囲のテンションもあがったようだな。
「いつまで寝てるんだウドン」
「う、あ、兄貴済まねぇ!」
そしてガロウが倒れたウドンに話しかけると、申し訳無さそうにしながらウドンが起き上がりガロウに謝っていた。
「すごいよ! やっぱりリョウガは強いんだね!」
マリスも俺の側にやってきて興奮気味に声を掛けてきた。ま、大袈裟に騒ぎ立てるようなものではないが、素直に喜ばれるのは悪くない。
「まさかウドンに勝つとはな……」
そしてガロウが俺の方を向き口を開いた。
「約束通りこれは賞金の金貨四十枚だ受け取ってくれ」
そしてガロウが中身のずっしり詰まった袋を俺に渡してきた。
「どうも」
賞金はしっかり受け取った。中身はしっかり金貨四十枚だな。
「中身を確認しなくていいのかい?」
「大丈夫だ。重さでわかる」
「ほう……」
既に金貨の重さは理解したからこれぐらいはどうってことないが、ガロウは俺をじっと見ていた。
「あんたもしかしてスキル昇華者かい?」
そして今度は聞き慣れないワードまじりにガロウが聞いてきた。ふむ昇華ね――




