第63話 マリスのチャレンジ
参加費の銀貨五枚を支払いマリスが挑戦権を得た。
「そういえば貴方、名前何ていうの?」
「俺の名前が気になるのかい? 俺はウドンだぜ」
マリスの問いかけに相手の男が答えた。しかし随分とモチモチしてそうな名前だな。
「ちなみに俺はガロウだ。宜しくな」
もう一人の男も名乗った。流石にソバではなかったか。
「さて、そろそろ初めていいかい? 制限時間は三分だ。ウドンからは手は出さず逃げるのに徹する。それまでに一撃でも当てることが出来たら嬢ちゃんの勝ち。賞金の金貨二十枚はあんたのもんだ」
ガロウが改めてルールを説明した。確認したマリスは屈伸し腕を回して張り切った。
「いいよ。やろう」
「よし。それなら開始だ。この砂時計が落ちきったらチャレンジは終了だ」
そういってガロウが近くにおいてあった砂時計をひっくり返した。なるほどあれで丁度三分計れるようになってるわけか。
「いくよ!」
マリスがウドンめがけて飛びかかった。
「おっと!」
マリスの拳をウドンが避ける。すると勢い余ってマリスの拳が地面を打った。途端に地面が砕け陥没する。
「へぇ……」
見ていたガロウの目つきが変わった。ウドンもギョッとした顔を見せている。
「おいおいあの嬢ちゃんすげぇぞ!」
「これならいけるんじゃないか?」
「きゃぁ可愛くてかっこいいなんて最高~頑張って~!」
周囲で見ている観客も盛り上がってきたな。数も増えてきている気がする。
「まだまだこれから!」
マリスが次々と攻撃を繰り出していく。ウドンはそれを必死に避けている様子だ。そのためかマリスも手応えを感じているようだが――あれも手だな。
マリスの動きに最初こそ驚いていたようだが、結果的に相手を少し本気にさせたようだ。さっきの挑戦者に対するような余裕はないが、それでやられるほど甘くないってことか。
「くそ! もうちょっとなのに!」
「ちょっと待てってこんなに強いなんて聞いてないぞ!」
そういいながらもしっかりウドンはマリスの攻撃を躱している。確実に経験の差だな。動きだけならマリスの方が速い。それは間違いないが、マリスの攻撃は単調でわかりやすい。
相手の方が機敏であっても次に来る攻撃が読めれば避けるのは難しくない。マリスの攻撃は身体能力に任せた力任せのものだ。
「ならこれで!」
マリスが前に踏み出し大きく拳を振りかぶった。これも本来当たるものじゃないが――マリスは拳を地面に振り下ろした。
刹那、地面が爆散し土塊が撒き散らされ煙が上がった。これは目眩ましか。マリスにしては考えたな。
そしてマリスがその隙にウドンの背後に回り込み蹴りを放とうとしたが――
「フンッ!」
「キャッ!?」
ウドンが背中に回ったマリスに裏拳を放った。短い悲鳴を上げてマリスが地面に転がった。
「おいウドン! 何やってんだ!」
「す、すまねぇ兄貴!」
ウドンの行動を見たガロウが大声で怒鳴った。この挑戦はウドンが一切手を出さないことが条件でもある。
故に裏拳を放ったのは明確なルール違反だった。ウドンもおそらくわざとではないだろう。だがマリスの思いがけない行動で反射的に手が出たといったところか。
「おい、あいつ手を出したぞ?」
「これってどうなるんだ?」
「いやいやルールを破ったんだからこれはあの子の勝ちだろ?」
見ていた観客たちも騒ぎだした。ガロウは後頭部をさすりマリスに近付ていく。
「嬢ちゃん済まねぇな。これはウドンのルール違反だ。だから賞金はあんたのもんだ」
ガロウは以外にも素直に非を認めた。もう少しゴネるかと思ったが、勝負事に対してはきちんと筋を通すタイプってことか。
「納得いかない……」
だがマリスが妙なことを口走り始めた。
「私は一撃も当てられなかった。最後は避けることもできなかった。こんなの勝ちっていえないわ!」
これは、マリスのプライドが許さないってことか。全く素直に認めれば賞金が手に入るってのに。
「しかし嬢ちゃん。こっちもそれじゃあ筋がとおらねぇ。ウドンはルールを曲げたんだ」
そしてガロウもまたプライドが高い人物だったようだな。しかし妙な話になったもんだ。
「マリス。ルール上はお前の勝ちだ。それでいいんじゃないか?」
「駄目納得いかない。だから賞金を貰う代わりにこのリョウガにも挑戦権を与えてよ。それなら私も納得出来る」
そしてマリスがまた妙なことを。全くなんでこんなことになってるんだか――




