第60話 冒険者崩れ
「そいつらなら俺も聞いたことがあるぞ」
暴虐の狼についてダリバが思い出したように口にした。
「冒険者崩れの集まった盗賊団でな。腕利きの連中が揃っているそうだ」
冒険者崩れ、つまり元々は冒険者だった連中が盗賊に身を落としたということか。
「暴虐の狼はこの辺り一帯で活動を活発化させた盗賊たちなのです。奴らがやっかいなのは他の盗賊団にも仲間を派遣することです。その分の報酬は要求するようですが結果的に大きく手を広げることに成功しているのですよ」
依頼人がダリバに追随する形で説明を付け加えた。しかし派遣か。元冒険者だけあってギルドの仕組みを上手く盗賊世界に落とし込んだわけだな。
「それにしても暴虐の狼に狙われて無事でいられるとは、貴方たちの実力は相当高いのですね」
「まぁな。俺らが来てラッキーだったぜ」
「あんた結局盗賊相手には何も出来なかったじゃないか」
「う、うるせぇ! これから本気出すところだったんだよ!」
スカーレッドのツッコミにダリバが叫ぶ。そのやり取りを依頼人は苦笑しながら聞いていた。
「ところでこいつらのことはギルドにも報告するの?」
転がる死体を見ながらマリスが聞いた。今回の依頼は護衛だが襲ってきた盗賊については知らせる必要がありそうだ。
「そうだな。一応持ち物を見て証拠になりそうなもんを持ち帰らないとな」
「盗賊に襲われたことは私からもしっかり説明させて頂きますね」
ダリバが疑問に答え、依頼人もギルドに知らせてくれると約束してくれた。その後は盗賊の死体を調べ身元を特定できそうなものがないか確認したが案の定そんな証拠になるような物は持っていなかった。
「やはりこれといった物はもってなかったな」
「あぁ。仕方ないから耳を切り取っていくか」
言ってダリバが盗賊の死体から耳を切り取っていった。
「耳を取ると何かあるのか?」
「ギルドの鑑定師が見てくれるんだよ。それである程度身元が判明することもあるんだ」
俺が聞くとダリバが答えてくれた。なるほど、そう言えばこっちではスキルで色々と鑑定出来るのがいるんだった。
スキルの概念は俺の世界にはなかったものだからな。戦闘面では正直スキルがあるからといってそこまで手応えを感じることはなかったが調査などでは役立ちそうな物もあるようだな。
とりあえず一通り出来ることを済ませた後は再び仮眠を取り合った。その後は特に何も起きること無く明朝には出発した。
それから目的の街まで魔獣などに襲われることはあったがそこまで苦労することなく依頼人を送り届けた。ちなみに今回の依頼は依頼人が街まで戻るまでになる。
「私は二日ほど滞在しその後街に戻ることになります。それまでどうか宜しくお願い致しますね」
「あぁ。街なかでも誰かしら護衛はついて回るからそこは安心してくれ」
ダリバが答えた。こういう対応はこの中で一番経験の長いダリバにやってもらうのが一番だからな。
「全員ではついてまわらないんだね」
「そんなゾロゾロいても仕方ないからな。まぁ野宿したときと一緒でパーティーで分担して護衛する形でいいだろう」
ダリバの提案に得に意論はなかった。とりあえず今日は引き続きダリバとスカーレッドが依頼人について回るようだ。
「リョウガたちは一旦ギルドに言って盗賊について報告しておいてくれるか。その後は自由にしていいからよ」
別れ際ダリバにそう頼まれた。報告後は好きにしてていいと言われてマリスが嬉しそうにしている。
「それなら折角だし色々見て回ろうよ!」
言ってマリスが目を輝かせた。ここは今俺が拠点にしている街に比べると規模こそ小さいが商人が荷物を届けに来ただけあって活気があった。
屋台なんかも多そうで特にマリスはそれが気になってるようだな。別に付き合う必要もないかもだがマリスが俺の腕をグイグイと引っ張ってくる。
ま、街の情報を掴むのも悪くないか。仕方がないからギルドに報告した後は暫くマリスに付き合って街を見てみるか――




