第55話 襲われる馬車
「どう! 私、役に立ってるでしょう!」
マリスが握りこぶしを作って俺にアピールしてきた。殴り飛ばされたレッドワームは倒れたままピクピクと痙攣している。
なるほど。戦闘力はそれなりに高そうだが――
「敵は一匹じゃないのに呑気だな」
「え? キャ、キャアァアアアアア!」
地面から飛び出てきた別な個体に巻き付かれマリスが悲鳴を上げた。やれやれ力は強くても警戒心は低いな。
別に放っておいてもいいが、護衛対象の馬車が近くにいるから仕方ない。マリスに巻き付いたレッドワームに近づき右腕で引きちぎった。
「痛ッ!」
マリスが尻から落下した。片目を瞑って腰を擦っている。
「全く。護衛する側が守られてどうする」
「う……ごめんなさい。今度はもう油断しないから!」
マリスが構えを取って声を上げた。目に本気が見えるな。これなら次は大丈夫か。
「てか、あっさりあれを二匹倒している時点でとんでもないね!」
「あいつは規格外なんだよ」
少し離れた場所でスカーレッドとダリバが共闘しレッドワームを相手していた。スカーレッドは鞭でダリバは大剣で攻撃していた。
「起死回生の一撃!」
ダリバが叫びレッドワームに鋭い一撃を叩き込んだ。今の一撃は特に威力が高いな。レッドワームが千切れ倒された。
一言叫んでいたが、もしかしたらスキルの効果なのかもしれない。
「たく、いきなりこれとは先が思いやられるぜ」
額を拭うダリバ。俺としてはそうでもないがまぁこんな巨大ミミズがウヨウヨいると思うと嫌にもなるのか。
「助かりました。やはり冒険者ギルドに護衛を依頼して正解でしたね」
依頼者もホッと一息といった様子だ。その後も護衛しながら同道しているとカエルの化物が出てきたり人型のザリガニもどきが出てきたりした。
「チッ、こいつらかてぇ!」
「腹のあたりは柔らかいぞ。そこを狙うといい」
「ここだね!」
「見てみて私は殻ごといけたよ!」
ザリガニもどきの甲殻に苦労する二人を他所にマリスが殻ごと拳で突き破っていた。
もっとも俺も素手で余裕な硬さではあったがな。だが敵は地上からだけとは限らない。
ムカデに羽が生えたような怪物もやってきて襲いかかってくる。
「全く次から次へといい加減にしなよ!」
叫びながらスカーレッドがナイフを投擲した。空からやってきた化物の節目にナイフが刺さると羽の動きが鈍くなりそのまま落下した。
あれは毒が塗布されているようだな。それが効いたわけか。墜落した敵は自重に耐えきれなくて息絶えていた。
「やったね。私もやる時はやるんだよ」
「おお、すげぇなスカーレッド」
ダリバが相棒となるスカーレッドを褒めていた。護衛の仕事している中で打ち解けてきてるようだな。
「どうリョウガ。私も役に立ってるよね!」
戦闘が一段落しマリスがやたらと自分をアピールしてきた。最初のレッドワームみたいに捕まることはなくなり、結構な量を倒してきたのは確かだ。
「ま、護衛としては上々じゃないのか」
「本当に? やった!」
マリスが嬉しそうにしていた。単純な奴だな。
「皆様、そろそろ暗くなってきたのでここで休みを取りましょうか」
ある程度進んだところで依頼者がそう提案してきた。移動は商人に合わせているからこっちもそんなに早くは進めないからな。
野宿を含めるのも仕方ないだろう。もっとも夜は夜で危険がある。何なら夜の方が危険まであるからな。油断は禁物だろう――




