第54話 暗殺者は護衛の依頼をこなす
俺とマリス、そしてダリバとスカーレッドの四人は護衛依頼を受けることになり街を出た。
護衛の依頼は基本的には馬車に同道して徒歩で向かう形になる。馬車と言ってもそこまで飛ばしていくわけじゃないからな。速度そのものは一般人でも少し急げば追いつくぐらいなわけで俺なら特に苦もなくついていける。
これは俺だけじゃなく他の三人も一緒だった。マリスとスカーレッドは冒険者としてのランクこそまだ低いが体力には自信がありそうだからな。
「正直傭兵で食っていくのも限界感じていたから丁度良かったよ。依頼の報酬も思っていたよりも貰えるようだからねぇ」
道中スカーレッドはよく喋った。あまり黙っていられないたちなのかもしれないが少し煩く思う。
「それにしてもマリスは可愛いよなぁ」
「は!? と、突然何を言い出すのよ!」
急にスカーレッドがマリスと並びベラベタと触りだした。特に角に興味があるのか軽く撫でたりしている。
「これってどこから生えているんだ?」
「あ、頭からだよ見ればわかるじゃない」
「いや、そうじゃなくて骨なのかどうなのかなってさ」
「そんなことしらないわよ」
そう言いながらマリスがスカーレッドから距離を取った。スカーレッドもそれ以上はベタベタしないようだ。ま、興味があったのは確かなようだが、一応探りを入れたってところか。
マリスは半魔と呼ばれる亜人だ。しかも昨日まで人間に奴隷として捕らえられていた。それならば人間に恨みを抱いていてもおかしくない、と考えたのだろう。それで念のため身体チェックをしたってところか。
だがその心配は不要だった。
俺も多少は警戒したがこいつは嘘がつけないタイプなようだ。というか何か画策しようとしても態度に出るから実にわかりやすい。
暗殺者には絶対向かないタイプだろうな。まぁ今は冒険者だからそこまで気にすることもないが。
「お前らあまりはしゃぐなよ。仕事で来てるんだからな」
ここで口を挟んできたのはダリバだった。ダリバは以前に一緒に依頼を受けた時に比べると口数が少ないな。まぁ言ってることには間違いがないが。
「皆さん徒歩でついてきてもらってすみませんね」
御者台から依頼者が声を掛けてきた。馬車に乗って移動できないことを気にしているようだな。
「ま、仕方ないってね。商人は馬車に荷物を詰めるだけ詰めて移動するわけだし」
スカーレッドの言う通り荷台に俺たちが乗れるスペースはない。そもそも人が乗るのを想定した作りではないだろう。
「そう言って頂けると助かります」
依頼者が答えた。そこから更に移動は続くが今のところは平和なものだった。
「さて、問題はここからです。この先に丘陵地帯があるのですが岩場が多く、危険な化物が潜んでいるのでどうかお手を貸してください」
依頼者が真剣な顔でいった。ここは異世界だ。人間に牙を剥く化物も多い。そういった危険に対処するのも俺たち冒険者の役目ってことか。
そして俺たちが急流地帯に足を踏み入れるなり地面が盛り上がり巨大なミミズが姿を見せた。
「くそ! レッドワームかよ!」
ダリバが叫んだ。確かにミミズらしく赤いな。わかりやすい名称だ。
「三匹か多いね!」
「ひ、ひぃいぃいい!」
スカーレッドが表情を険しくさせ依頼者は悲鳴を上げながらガタガタと震えていた。当たり前だが依頼者に戦いは期待できないな。
「私の力を見せてあげるわ! はぁあぁあぁああ!」
するとマリスがさっそうと飛び出しレッドワームに単身向かっていった。
「ドリャァアアアァアア!」
声を上げレッドワームを、殴った。あれがマリスの戦法か。強化魔法だけは使えると言っていたが中々の脳筋スタイルだな――




